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ブルーバックス

人類最大の謎!頭の中で心を生むしくみが分かる「つながる脳科学」

これが脳研究の最前線

脳は人類最後のフロンティア

圧縮表現、仮想空間、カントの『純粋理性批判』、記憶痕跡、教師信号、子殺し、過誤記憶、消去学習、心的外傷、絶対空間、知覚の相対性、超解像顕微鏡、長期増強、ディープラーニング、デコーディング、テレポーテーション、トム・クルーズ細胞、二光子励起、透明化、場所細胞、ビッグデータ、父性の目覚め、報酬系、輸送反応、揺らぎ、リプレイ、臨界期、ロボティクス……。

これらは全て、本書『つながる脳科学』(講談社ブルーバックス)に登場するキーワードである。

脳科学が取り扱う現象はあらゆる心理現象、社会現象におよび、その関心の対象は、心理学のみならず、経済学や哲学など、これまで人文・社会科学が対象としてきた領域へも広がっている。

脳の研究においては、分子生物学はもちろん、物理学、化学、情報科学など、幅広い自然科学の手法を駆使する必要がある。右に示した多彩なキーワードの向こうには、あらゆる領域とつながっている脳科学の姿が透けて見えるようだ。

 

人間の心、そして社会を生み出している脳は、宇宙と並ぶ、人類最後のフロンティアである。脳科学研究を学際的に推進し、この複雑な脳を解明するためには、多領域の研究者が結集して、脳科学に特化して研究を進める拠点が必要だということで、1997年に理化学研究所に設置されたのが、脳科学総合研究センターである。

理化学研究所は、高峰譲吉が、我が国が理化学工業によって国の産業を興そうとするなら、基礎となる理化学の研究所を設立する必要がある、と提唱したことに基づいて、1917年に設置された。

従って、その創立時から、理化学研究所は基礎研究を行う研究所であると同時に、その成果が産業につながることへの期待があった。脳科学もまた、前述のように多くの学問領域とつながるだけでなく、脳の病気の解明と治療法・診断法開発、次世代の人工知能の開発などを通して、さまざまな産業に発展し、社会に貢献していくことだろう。

チームリーダーたちの集結

脳科学総合研究センターが20周年、理化学研究所が百周年を迎える2017年を前に、我々は、これまで20年の脳科学研究の成果を振り返り、今後の方向性を探るため、こうした「つながり」をイメージして、「脳科学∞つながる」と題して記念イベントを行ってきた。

そんな折、当センターの10周年記念事業の一環として『脳研究の最前線』を出版した講談社ブルーバックスより、再び機会をいただき、本書『つながる脳科学』の出版が実現した。前回は、研究者が一人一章執筆する形だったこともあり、章によっては、脳研究者を目指す者の入門書となりうるほどの内容であった。

今回は、より幅広い方々にご利用いただけるよう、サイエンスライターの丸山篤史氏に、九名の研究者へのインタビューを元に原稿を執筆していただき、各研究者が最終的に担当の章を仕上げるという形をとった。

利根川進センター長による、記憶痕跡を自由自在に操作する驚くべき研究についての話に始まり、藤澤茂義チームリーダー(TL)による脳内で時空がどう扱われているか、合田裕紀子TLによるシナプス可塑性とグリア細胞の役割、豊泉太郎TLによる臨界期の理論モデル、風間北斗TLによるリアルタイムの脳情報解読、ジョシュア・ジョハンセンTLによる感情の神経回路、宮脇敦史TLによる脳研究の最新技術、筆者の双極性障害の原因解明、そして黒田公美TLによる親子関係の脳科学と、この一冊にはさまざまな方向に向けて展開する脳科学の最前線の話題が詰め込まれており、どんな読者にとっても必ず新しい発見があるはずである。

この本が、脳科学が更に新たな領域とつながっていくことに少しでも役に立てば、と思う次第である。

読書人の雑誌「本」2016年12月号より