野球
新井貴浩MVP受賞におもうプロ野球選手の「ウサギとカメ」
ドラフト6位の選手が初受賞

プロ野球のMVPは記者投票によって選出されます。大谷翔平選手(北海道日本ハム)の“圧勝”が予想されていたパ・リーグとは違って、セ・リーグは僅差の争いになるのではないか、と見られていました。

MVPを選出するにあたり、「優勝チームから」という規定はありません。しかし、突出した成績を残した選手がいないのであれば、不文律として優勝チームから選ばれるのが昔からの習わしです。

では、25年ぶりのリーグ優勝を果たした広島において、誰がMVPに最もふさわしいのか。

主砲として101打点をたたき出した新井貴浩選手か、攻守両面でチームを牽引した菊池涼介選手か、あるいは“神ってる”鈴木誠也選手か。ピッチャーに目を向けると、沢村賞のクリス・ジョンソン投手、最多勝の野村祐輔投手も有力な候補だと見られていました。

フタを開けると39歳の新井選手が選ばれました。2位の菊池選手に352ポイント差を付けての、堂々たる受賞です。

叩き上げのMVP

セ・リーグ最年長受賞ばかりが話題になっていますが、ドラフト6位の選手が受賞するのは、セ・リーグでは初めてのことです。まさに、叩き上げの選手が球界の頂点に立ったのです。

 

新井選手がドラフトにかかった1998年と言えば、逆指名制度がスタートして6年目です。この制度を利用して、自らの球団を志望する2人までの選手をクジ引きなしでとることができました。

この年の最大の目玉は大体大の上原浩治投手(現レッドソックス)と横浜高の松坂大輔投手(現福岡ソフトバンク)でした。

上原投手の1本釣りに成功した巨人は、残り1枠で「大学ナンバーワン内野手」の評価を得ていた二岡智宏さんも獲得しました。高校生ということで、逆指名権が与えられていなかった松坂投手はクジ引きの末に西武に入団しました。今季限りでユニホームを脱いだ新垣渚さん(沖縄水産高)が希望球団ではないオリックスに指名されたため、進路を変更して大学に進んだのも記憶に新しいところです。

当初、広島は逆指名で地元の広陵高出身の二岡さんを獲得するつもりでした。二岡さんをマークしていた宮本洋二郎スカウトは、二岡さんの入団を確信しており、ドラフト直前になって断りの電話が入っても、「二岡に限ってそんなことはない」と、うのみにはしなかったそうです。

ウサギとカメ

この年、誰に期待されることもなく、ひっそりと広島に入団したのが新井選手です。入団当時の新井選手を知る大下剛史さん(元広島ヘッドコーチ)はこう語っていました。

「駒大の太田誠監督から、“大下、これは就職先がないから、オマエ、広島に連れて帰ってくれんか”と言われたのが新井を獲るきっかけですよ」

プロに入ってからの二岡さんと新井選手の歩みを見ていると、まるで“ウサギとカメ”のようです。

もし二岡さんを予定どおり逆指名で獲得していれば、「(大学出のもうひとりの内野手である)新井は獲っていなかったかもしれない。新井に運があったということでしょう」と、あるスカウトから聞いたことがあります。

人の運とは、そして球団の運とは、そういうものなのかもしれません。