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企業・経営
バーバリーを失った三陽商会の「落日」
経営陣が陥ったビジネスの罠

「最高のパートナー」。そう思っていた相手に裏切られた。業績は急降下、浮上のきっかけはつかめない。こんなはずじゃなかった——。どんな企業も陥る可能性のある、ビジネスの「罠」に迫る。

見通しが甘すぎる

「まだ三陽商会がバーバリーのライセンスをどうするかについて交渉を行っているとき、杉浦(昌彦)社長と食事をしました。酒を飲みながら彼は、『(バーバリーは)残ってくれるはずです。私は自信を持っています』と言っていた。

ところが結果はこの有り様。社長をはじめ経営幹部は、無意識のうちにどこか自分たちにとって都合のいいシナリオを描いてしまっていたのではないでしょうか」(三陽商会関係者)

1942年創業、アパレルの名門・三陽商会がいま「落日」と呼ぶべき状況に陥っている。10月28日に会見で発表された'16年1〜9月の業績は、売上高が前年同期比で35%減の478億円、ピーク時に比べると半分にまで落ち込んだ。営業損益も83億円の赤字。

さらに来年8月までに計250ヵ所の売り場を閉め、10のブランドを廃止することを発表した。加えて250人の早期退職も実施するという。「聖域なき大リストラ」を迫られているのだ。

 

落日は現場にもハッキリと現れている。

東京・銀座の中心を貫く中央通りを新橋方面に向かって歩くと、右手に9階建ての「三陽銀座タワー」がある。すべてのフロアに、「ポール・スチュアート」「ブルーレーベル・クレストブリッジ」など三陽商会のブランド店舗が入っているが、平日の夜には各フロアに2〜3人の店員がうろついているだけで客はほとんどいない。

ビル入り口ではロボットのPepperが「秋冬の新作は……」と空虚な声を発している。そこから300mほど歩いたユニクロは、アジア圏からの観光客を含め、多数の客でにぎわっているにもかかわらず。

三陽商会がこれだけの苦境に陥った理由は誰の目にも明らかだ。'15年6月、イギリスの有名ブランド「バーバリー」が同社からライセンスを引き上げたからである。

同ブランドの製品が売り上げの半分以上を占めるといわれた三陽商会は、その「屋台骨」を失って以降、まるで舵を失った船のように漂流、迷走してきた。三陽商会の現役社員が憤る。

「経営幹部は『バーバリーロス』で売り上げが落ち込んだ昨年来、『'16年10月末までに新しい中期経営計画を出す』と言ってきましたが、先日、それが来年2月まで延期されました。

ある幹部は『夏季休業があったから』などと言っていましたが、休みを言い訳にしている場合じゃない。あまりに危機感が薄い。

そもそも前回の中期経営計画からして見通しが甘すぎる。バーバリーがライセンスを引き上げることが決まった'14年5月に出されたその計画では、'15年12月期こそ売上高が1000億円を割るものの、'18年には1000億円を回復するという予想を立てていた」

いつのまにか邪魔者に

こうした「中期経営計画」の予想が象徴するように、三陽商会は様々な段階で、現実よりも遥かに甘い想定を出してきた。

「これまでの実績があるから」と楽観的シナリオにすがりついた結果、「バーバリー後」の準備に失敗。そこにはいくつもの「誤算」があった。

第一に、冒頭の関係者が語る通り、社長を筆頭に三陽商会の幹部は、バーバリーが同社を「切れない」と思い込んでいた。アパレル関係者が言う。

「三陽商会は'70年以来、バーバリーのライセンスを、10年契約→20年契約→20年契約と長期契約で獲得してきました。そして、そのブランド名を使って製品を製造。その品質は『本国の製品より優れている』と言われるほどでした。

つまり、バーバリーはその製品のクオリティで日本市場に名前を売ることができ、三陽商会は売り上げが立つ。両社は『バーバリー商会』と言われるほどの蜜月関係だったのです」