経済・財政 世界経済 中国

中国リスクに尻込みする日本企業は、大きなチャンスを逃している

近藤大介の上海レポート

ある銀行経営者の不満

「今年のカニは、小ぶりなんです。陽澄湖の一帯が、夏に天候不順が続いたせいで、カニが丸々と太りませんでした。でもいまは、先行する蟹卵のついたメスと、後発の身が引き締まったオスとが、両方召し上がれる絶好の季節です。紹興酒との相性もピッタリですよ」

白い割烹着を着たコックが、籠に入れた活きたカニを見せながら語った。

11月中旬のある晩、私は上海に来ていた。ここは上海市の中心、人民広場から福州路を5分ほど東に歩いたところにある『王宝和酒家』である。清朝の乾隆9年(1744年)に、僧侶の王桂臣が紹興で開業した老舗だ。

改革開放初期の1979年10月、この地で開いた上海ガニの大宴会が評判を呼び、世界中に上海ガニの名が広まった。上海では「酒祖宗、蟹大王」と呼ばれる「上海ガニ発祥の地」である。

 

私は2006年の秋にも、この店を訪れたことがあった。当時は、この店のあちこちの円卓で、日本語が飛び交っていたものだ。上海駐在の日本人ビジネスマンや、上海を旅行中の日本人観光客などが広く利用し、「上海の中の日本」が見られる場所の一つだった。

ところがちょうど10年ぶりに訪れてみると、300席ほどある円卓に、日本人の姿は見られない。コックに確認すると、少し寂しそうに答えた。

「そういえば最近、日本人はめっきりいらっしゃらなくなりました。しかしこの季節は、おかげさまで2、3週間前から予約をいただかないと席がお取りできないほど盛況ですし、別に気にはしていません」

筆者撮影

『王宝和酒家』で私が会食した相手は、日本留学の経験もある旧知の地元の銀行経営者だった。1000人強の従業員を抱えていて、日系企業との取引も活発に行っている。

私とコックとの会話を聞いていたその「老板(ラオバン)」(経営者)は、声を大にして不満を爆発させた。

「中国経済は確かによくない。2013年に上海で始まった自由貿易区は、金融の自由化が進まないなどの理由で、目標としていた『第二の香港』にはなっていない。かつては上海発展の牽引役だった宝鋼製鉄所も、いまでは『ゾンビ企業』などと囁かれている。

だがそういったことを差し置いても、この国には、日本の総人口の約2倍にあたる2億人以上の中産階級が育ってきている。上海とその後背地だけで、1億5000万人もの旺盛な消費者がいる。日本旅行もブームになって、日本の良さを改めて見直そうという気運が高まっている。

それなのに日系企業ときたら、中国はもうダメだから撤退だ、縮小だなどと言っている。こちらの日本人駐在員に文句を言うと、『私もいまこそビジネスチャンスと思うんですが、日本の本社がそう思っていなくて…』と言い訳する。

改革開放政策が本格化した1980年代以降、中国に一番投資してきたのが日系企業だった。それなのに、苦労して播いた種がようやく実って、さあ果実を摘み取ろうという時に去ってしまうのだから、もったいないことこの上ない」

生粋の上海人である「老板」は、上海ガニを触る手つきが板についている。手のひらで持て余すように全体の感触を確かめてから、まずは腹部を割り、甲羅を剥がし、タレを含み、脇のエラを外し、真っ二つにして、中心部に再びタレを含み、足を吸う…。

そして時折、甕だしの紹興酒を合わせて啜る。店側が「今年は小ぶりだ」などと謙遜する割に、身はホクホクしていて、やはり本場でいただく味は別格だ。

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