Photo by Yuki Matsui
エンタメ

いきものがかり水野良樹が明かす「曲作りの原点」

名曲「YELL」に込めた思い

「人間は孤独なんです。だからこそ歌が必要なんです。そこに曲作りの原点がある」――。

自伝的ノンフィクション『いきものがたり』を上梓した、いきものがかりのメインソングライター・水野良樹氏と、名曲の歌詞から哲学を紐解いていく『Jポップで考える哲学』を刊行した気鋭の若手哲学者・戸谷洋志氏による特別対談の前編。

名曲『YELL』を哲学的に分析すると、ニーチェに通じる思想が見えてきた…?

Jポップの消費の仕方が変わってきている

水野 僕が戸谷さんのことを知ったのは、Twitterがきっかけでした。「YELL」を取り上げている本があるよ、とファンの方が『Jポップで考える哲学』のことをTwitter上で教えてくださったのです。この本はJポップを題材に様々な哲学の問題を扱っていますね。

戸谷 私の本では、Mr.Childrenや嵐の曲など、誰もが知っているようなJポップの名曲を15曲とりあげて、そこから哲学について語っています。

水野 戸谷さんはなぜ哲学を語る上でJポップを選んだんですか? 哲学のようなアカデミズムに属するものは、どうしてもJポップなどの商業的なものについて扱うことに、抵抗があるのではないかと思っていました。

しかも、Jポップのなかでも宇多田ヒカルさんや西野カナさん、SEKAI NO OWARIさんなど、誰もが知っている曲で哲学を語っている。それはどうしてなのかなと聞いてみたかったんです。

 

戸谷 そうですね。哲学には、日常の延長線上から、自分の人生を問い直す役割があります。哲学の講座とか教授の話は、専門用語が飛び交って何を言っているのか分からないようなものがほとんどなのですが(笑)、私は、哲学は本来そういうものではないと思っているんです。

難しい専門用語ではなく、むしろ自分の言葉で考えるべきことだろうと思うんですね。自分の言葉で哲学をしていくということは、自分自身にとっての問題を考えていくことです。そんな専門用語にとらわれない哲学を、どう表現すればいいか迷っていました。

水野 なるほど。

Photo by Yuki Matsui

戸谷 そこで、私のような、ゆとり世代にとって最も親しみやすい言葉とは何かと考えた時に、Jポップにたどりついたんです。

Jポップが音楽産業のなかで強い人気があるというのはもちろん、2000年代以降に携帯音楽プレーヤーが発達して、電車の中や待ち合わせ中に音楽を聴くということが可能になりました。そうすると、音楽、特にJポップの聴かれ方も大きく変わってきた。たとえば、部活で嫌なことがあったときに「帰りたくなったよ」を聴くとか。

水野 僕らの曲もそういう聴かれ方が多いと思います。

戸谷 自分のモヤモヤした気持ちに対して、Jポップの詞から答えを見出そうとする。そういう聴き方をしている人はすごく多いと思うんです。他にも、実際にCDを聴くだけではなくて、たとえばTwitterのアイコンがいきものがかりさんの写真になっていて、そこに歌詞が書かれたものがプロフィールになっていたりする。

水野 いつもお世話になっています(笑)。

戸谷 たぶん、そういう消費のされ方をも含めて「Jポップ」だと思うんです。

水野 すごくよくわかります。

戸谷 CDの売上だけ見ていても分からない多様な聴き方がされていて、若者たちの身近な生活の中に浸透している「文化現象」が、Jポップだと思うんですね。その点では演歌の哲学、クラシックの哲学、ジャズの哲学などと「Jポップの哲学」では意味がまったく違う。

Jポップを題材にして哲学をすることで、Jポップに親しんでいる若者たちが抱える感情、悩みなどが浮かび上がるのでは、と考えたんです。そんな思いで書いたのが『Jポップで考える哲学』でした。

最後の章で取り上げたのが、いきものがかりさんの「YELL」でした。この本を書くまで、いきものがかりさんは、みんなが親しめる身近さをもっていて、解放的で肯定的な明るいグループだと思っていました。

ところが曲を聴いていると、明るいメロディに乗せているんだけれど、歌詞には孤独や別れといったメッセージが一貫して流れている。特に「YELL」ではそれが強く表れています。