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まさかの撮影中止から13年―たけしが田中角栄を演じる日

ビートたけしが演じた戦後ニッポン【最終回】

俳優・ビートたけしはこれまで多くの「昭和の大事件」の当事者を演じてきた。大久保清、千石剛賢、田岡一雄、金嬉老、東条英機。さらには、3億円強奪事件の犯人、豊田商事会長刺殺事件の犯人、エホバの証人輸血拒否事件で死亡した男児の父親……。

はたして、たけしの演じた人物と彼自身はいかに重なり合ったのか? あるいは両者のあいだに相違点はないのか? 人気連載最終回は、一度は決まりかけたものの、幻に終わった田中角栄役の可能性を探る――。

第1回~第4回はこちらから(http://gendai.ismedia.jp/list/author/masatakakondo

追い詰められる人物たちの葛藤

ビートたけしがこれまでドラマなどで演じてきた現実の事件の当事者たちを振り返ると、その大半が、困難な状況に追い詰められた人物であることに気づく。

前回とりあげた『説得――エホバの証人と輸血拒否事件』(TBS、1993年)の父親は、交通事故に遭った息子を助けるため、信仰する宗教の禁じる輸血をすべきかどうかという状況に追い詰められる。

『イエスの方舟』(TBS、1985年)では、たけし演じる実在の宗教団体「イエスの方舟」の主宰者・千石剛賢(ドラマでの役名は京極武吉)が、家族との不和から教団を頼って家出してきた女性たちを受け入れる。

しかし、そのことによって千石は女性たちの家族との軋轢を深めていった。社会からも強い非難を受けた彼は、ついには教団ぐるみで全国各地を放浪するまでに追い詰められてしまう。

 

『実録犯罪史 金(キム)の戦争』(フジテレビ、1991年)で演じた金嬉老にいたっては、借金のトラブルから暴力団員を殺害したのを機に、死を決意して静岡・寸又峡温泉の旅館に籠城する。そんなふうに追い詰められながら葛藤する人物の姿こそ、たけしの演技の見せどころであった。

この連載の第1回では、『昭和四十六年、大久保清の犯罪』をはじめTBSでたけし主演の実録ドラマを手がけてきた脚本家・池端俊策の次のような発言を引用した。

《二つの相反する立場に立ち、二つの顔を持つといった役柄が多く、それが大仰でなく素で演じて説得力がある不思議な俳優だという実感を得ました。

昭和史の中の事件や人物をドラマで描く時、こういう俳優の存在感は貴重ではないかと思っています》(『キネマ旬報』2016年5月下旬号)

池端作品ではないけれど、ここで指摘されることは『金の戦争』に典型的に現れている(ちなみに同作の脚本は早坂暁)。

金嬉老は暴力団員殺人・旅館籠城事件においては加害者である一方で、在日韓国人という出自から民族差別の被害者という一面を合わせ持っていた。加害者と被害者という立場のあいだで葛藤を続けた彼は、最後の最後で悲壮な決意をもって旅館に籠城し、差別を告発するという行動に出たのだった。