医療・健康・食 生命科学
身体ではなく「DNA」を手術!? 次世代医療の臨床研究が始まった
米中の熾烈な開発競争

最新のゲノム編集技術「クリスパー(CRISPR-Cas9)」による肺癌治療の臨床研究が先月、中国で開始された。

●“CRISPR gene-editing tested in a person for the first time” nature, 15 November 2016

「DNAの(外科手術用)メス」という異名を持つクリスパーが実用化されれば、近い将来、患者の「身体を切る」のではなく、「DNAを切る」ことで病気を治す新型医療が幕を開けるだろう。

免疫細胞をクリスパーで加工

今回の臨床研究を実施したのは、中国・四川大学のLu You博士らの研究チーム。彼らは癌患者から取り出した(免疫細胞の一種である)「T細胞」をクリスパーでゲノム編集し、「PD-1」と呼ばれる受容体の遺伝子を切断(破壊)した。

一般に、癌細胞で発現する「PD-L1」というタンパク質が、T細胞のPD-1に結合すると、その免疫機能が失われ、T細胞は癌細胞への攻撃を止めてしまう。そこで、PD-1を発現する遺伝子をクリスパーで破壊してしまえば、癌細胞のPD-L1は結合する相手がなくなるので、T細胞の免疫能力は維持できるというわけだ。

このように都合良く加工されたT細胞を患者の体内に戻せば、各種の癌を治療できると考えられている。

四川大学の研究チームは、この新たな治療法を、肺癌の中でも特に転移性の「非小細胞癌(non-small cell cancer)」の患者1名に適用した。

この患者はこれまでに、「化学療法(抗がん剤)」や「放射線療法」など既存の治療法を全て試みたが、いずれも効果がなかったため、今回の臨床研究の被験者となることに合意した。

前述のように、クリスパーは「DNAのメス」という異名を持つが、それはあくまで比喩に過ぎず、実際は、DNAを狙った場所で切断するための特殊な酵素などを成分とする試液(化学物質)だ。臨床研究では、この試液によってゲノム編集されたT細胞を患者の体内に注入することで癌治療への効果を見極める。

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