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エンタメ
卒業生の半分は行方不明!? 「東京藝大」に生きる愛すべき変人たち
元気が出る奇想天外エピソード

最後の秘境 東京藝大』(新潮社刊)が売れている。ベールに包まれてきた「芸術の園」のなかで伸び伸びと生きる「変人」たちの生態。読むと、なぜだか元気が出ると評判なのだ。

生協にガスマスク

「あの、ハレンチな出で立ちですからね、最初見たときはもうびっくりしましたよ」

最後の秘境 東京藝大』の著者、二宮敦人氏がこう回想するのは、「東京藝術大学」の女性ヒーロー「ブラジャー・ウーマン」の姿だ。

ブラジャーを仮面のように顔につけ、上半身はトップレス。乳首の部分だけ赤いハートマークで隠し、下半身は穴のあいた黒いタイツにパンツ。こんなあられもない姿で藝大キャンパス内を堂々と闊歩する。通常の街中であれば、「即通報」モノだが、藝大の学生たちはみじんも動じない。

「姿を見ると歓声をあげて手を振ったり、一緒に踊ったり。藝大生たちは彼女を学校のヒーローとして何の違和感もなく受け入れている。ブラジャー・ウーマンの感性もすごいけど、藝大生の感覚もすごい」

一般の大学では、なかなか目にするコトのない光景だが、これが東京藝大の日常なのだ。

自身は芸術家でもなく、はたまた藝大の出身でもない小説家の二宮氏は、いかにして藝大に興味をもったのか。

「私の妻が、藝大の彫刻科に在籍する現役の学生なんです。私が原稿を書いている横で、『ドッカンドッカン』と音を立てながら彫刻を彫っていたりする。ある日、家に戦争映画くらいでしか見たことのないガスマスクが置いてあって、妻が『大学の生協で買ってきた』なんて、しれっと言う。生協でガスマスクがあるなんて、どういう大学なんだ、と。

そういう、妻との不思議なやり取りを日々繰り返しているうちに、藝大には、我々一般の人間が思っている以上の謎や秘密が溢れている気がして、探求してみたくなったんです」

東京藝大は太陽の塔を作ったことで知られる芸術家、故・岡本太郎や、YMOで一世を風靡した音楽家の坂本龍一など、一般にも広く名の知られる人々をはじめ、各芸術分野の一線で活躍する人物を多数輩出してきた、いわば芸術界の「東大」だ。

 

キャンパスは、上野駅を背にして、左が美術学部で右が音楽学部。それぞれ「美校」と「音校」と呼ばれている両者は、シンメトリーのように向かい合っている。

「学生の見た目が全然違うから、ひと目で音校か美校のどちらか分かります。音校は、男性は爽やかなジャケット姿だったり、女性は白いワンピースにハイヒール姿だったり。大きな楽器ケースをもっていたりもします。

対して美校の学生たちは、髪留めのまわりだけをピンクに染めていたり、巨大な貝のイヤリングをしていたり。それぞれの自己表現がにじみ出ている。ブラジャー・ウーマンは、もちろん美校の学生です」

正解のない入試問題

美校と音校が対になっているのは、建物や学生の格好にとどまらない。

「美校の学生に聞くと、教授会に教授が遅刻してくることはザラで、なかには『雨が降る日は外に出たくないから休講』という先生もいるんです。対して、音校は時間厳守の意識が徹底されていて、特に厳しい邦楽科だと、レッスンの30分前には教室にいなくてはならない。

作品がずっと残り『今でなくても評価される可能性がある』美術と、一発勝負で『今を逃すと致命傷になる』音楽の違いが、はっきり現れているのだと思います」

日本で唯一の「国立総合芸術大学」である藝大への入学は、どれくらい難しいのか。例えば、全学科で最難関である絵画科の倍率は、なんと18・6倍。80人の枠を約1500人が奪い合う。

しかも、入試で出題される問題は次に示すとおり一筋縄ではいかない。