ハンターが「ヤマドリ」を2羽仕留めたら、ワインは私にお任せください

島地勝彦×廣瀬恭久【第4回】
島地 勝彦 プロフィール

シマジ そうだ、思い出した。横浜の上大岡に「相模」という美味いアンコウ鍋をやってくれる店がありましてね。そこによく開高さんと若い編集者を連れて食べに行きました。若い連中はアンコウの身を有難がって食べるんですが、開高さんとわたしは底に沈んだ胃袋だけを食べていた。そうしたら、開高さんから「お主、美味いものをよう知っとるのう」といわれたことがありました。

廣瀬 なるほど。ツウは胃袋なんですね。しかし、よくもまあ「田佐久」で胃袋だけの鍋を作らせましたね。

シマジ オヤジがほかのお客の分から少しずつピンハネして貯めておいてくれて、1週間くらいすると「胃袋が貯まりました。どうぞ」と電話がかかってくるんです。

立木 お前はどこでもオーナー面して威張って食べているからな。

廣瀬 スッポンのモモの塩焼きも白眉でしたね。

シマジ どの動物もよく動かすところが美味いんです。スッポンのモモは最高ですよ。あれもほかのお客から1個ずつピンハネして6個くらい貯まると電話がかかってくる仕組みでした。

廣瀬 シマジさんのことだから、いまもどこかに新しいスッポン屋をみつけてモモを貯め込んでいるんじゃないですか。

立木 白状しろ。ぜんぶ吐いてしまったほうが楽になるぞ。

シマジ いやいや、ああいう店を探しているんですが、なかなかみつかりません。スッポン屋はどこもモモをすぐ唐揚げにしてしまうんです。そのほうが簡単だからです。塩焼きで出すにはとろ火で30分くらい時間をかけて焼かないと、コラーゲンや脂が凄いから表面ばかり燃えてしまって中まで火が通らないんですよ。そのうち探したらみなさんをお連れしましょう。

ヒノ ホントのホントですね。

シマジ 武士に二言はないよ。

廣瀬 じゃあ、シマジさんが最近感動した食べ物はなんですか?

シマジ それはやっぱり、ヤマドリの刺身かなあ。

立木 なになに、ヤマドリだって。いったいどこで食べたんだ。

シマジ 先ほども話に出た「コントワール・ミサゴ」ですよ。一関の猟師に送らせたヤマドリを食べたんです。わたしも30年ぶりぐらいでした。

廣瀬 ヤマドリは刺身で食べるんですか。知らなかったなあ。

シマジ それも特別の最上級のわさびをおろして食べるんです。その味たるや上等のシビマグロよりも美味です。

廣瀬 秘蔵のペトリュースを持って行きますから、今度食べさせてください。

シマジ 今年ももしかすると一関から送ってくるかもしれませんから、そのときはまず廣瀬さんにお電話しましょう。

ヒノ 立木先生とぼくの分はないんですか?

シマジ 大きな鳥じゃないから1羽でちょうど2人分の量しかないんだよ。2羽捕れたらこの4人で食べられるんだが、ヤマドリは鳥類でいちばん速く飛ぶ野鳥で、まるでジェット機みたいだといわれている。だからヤマドリのオスを撃てるすご腕の猟師が少なくなっているそうなんだ。メスは禁猟なんですよ。

廣瀬 特別なわさびというのは、いったいどこのどんな代物なんですか?

シマジ 鋭い質問です。静岡に徳川家康にも献上したというわさびの郷がありまして、普通のわさびがまあ、一本5000円くらいとしますと、そこのは3倍くらいするらしいですよ。それを「ミサゴ」の土切シェフががみつけてきてくれました。

立木 シマジ、お前とは古い仲じゃないか。この冬は必ず喰わせろ。

シマジ わかりました。なによりも尊いものは友情ですからね。

廣瀬 そうだ。うちに1970代のシャンベルタンがありました。ヤマドリの刺身にはボルドーよりブルゴーニュのほうが合いそうですね。

シマジ なになに1970年代のシャンベルタンだって。わかりました。早速一関のハンターに連絡を取って何が何でもヤマドリ2羽を仕留めるよういっておきましょう。その代わり、廣瀬さん、シャンベルタンとはいいませんがワインは4人で飲む本数をご用意していただけませんか。

廣瀬 承知しました。ワインのことならお任せください。

立木 これで生きている甲斐が出来た。愉しみだな。

ヒノ セオさんには黙っていたほうがいいでしょうか。

シマジ お前はチキンハートな男だね。墓場まで持って行く秘密の1つにしろ。

〈了〉

廣瀬恭久(ひろせ・やすひさ)
エノテカ株式会社 会長
1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、川鉄商事(株)に入社。ユニゾン(株)勤務を経て、1988年8月、ワイン専門商社「エノテカ」を設立し代表取締役に就任する。2015年3月、アサヒビール(株)の完全子会社となり、現職に。

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1989年に刊行され、後に文庫化もされた「ジョーク対談集」の復刻版。序文をサントリークォータリー元編集長・谷浩志氏が執筆、連載当時の秘話を初めて明かす。

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