ハンターが「ヤマドリ」を2羽仕留めたら、ワインは私にお任せください
島地勝彦×廣瀬恭久【第4回】

撮影:立木義浩

第3回【 留学先で教わった「ワインの味」

シマジ 廣瀬さんはワインに関する本は書かないんですか。

廣瀬 書かないですね。ぼくはあくまで商人ですから、そういう本を書くと、いろいろ差し障りが出てきてしまうんです。いろいろなワイナリーと取引しているので、ここを書いてどうしてここを書かないんだ、なんて微妙な問題が生じます。

シマジ うん、なるほど。わかるような気がしますね。

廣瀬 ワインを売る仕事がメインですから、現役で仕事に携わっているうちはそういう本を書いたりすることはやめておこうと思っているんです。

シマジ なるほど。その姿勢は立派だと思います。じゃあ、引退されたらワインの奥義の本を1冊ぐらい書いてください。出版社はいくらでも紹介しますよ。

廣瀬 ありがとうございます。

シマジ ところでパリの「タイユヴァン」とはいまでも親しいですか?

廣瀬 親しいですよ。ボジョレー・ヌーヴォーは「タイユヴァン」から入れています。

シマジ へえ、ボジョレー・ヌーヴォーを「タイユヴァン」が扱っているんですか。時代は大きく変わりましたね。

廣瀬 いま作られているボジョレーは結構美味いのがありますよ。

シマジ 30〜40年前は飲めたものではなかったですよ。3星のレストランは扱っていなかったはずです。そのころパリにたまたま滞在していて、そうだ、今日はボジョレー・ヌーヴォーの解禁日だと気がついて、ソムリエに頼んだら、「帰りに八百屋で買ってホテルで飲んでください。うちでは扱っていません」といわれましたからね。

ボジョレー・ヌーヴォーが世界的に流行ったのは日本発でしたよね。世界でいちばん最初に飲めるということで。

廣瀬 そうです。日付変更線の関係で日本が最初に飲めるんです。

シマジ 昔は解禁日にファンが成田空港に集まって飲んでいましたよね。

廣瀬 そうそう。あのブームはちょっと行き過ぎていましたね。

シマジ 25年くらい前でしたか、廣瀬さんにお願いして「タイユヴァン」の予約をお願いして、7人のメインテーブルを取ってもらったことがありましたね。

廣瀬 あのころの「タイユヴァン」は3星で人気もピークでしたから、予約を取るのが難しい時代でした。

立木 ちょっと待て。シマジはどうして「タイユヴァン」に7人で行ったんだ?

シマジ わたしが広告部の役員をしていたころ、お世話になっていたフランスの化粧品会社のお偉いさんを接待したんですよ。「タイユヴァン」は日本が忠臣蔵で騒いでいたころにオープンした超老舗のレストランで、そこなら完璧な接待が出来ると思って予約したんですが、2ヵ月先まで予約がいっぱいだと冷たく断られてしまったんです。そこで廣瀬さんのコネに頼ったわけです。

廣瀬 あのころは日本人の観光客はなかなか入れませんでしたからね。

シマジ 接待したフランス人も驚いていましたよ。シャンパンはサロンを、ワインはラトゥールを飲んだりして、フランス人をすっかり気持ちよくさせたんですが、一緒に行った部下が飲んだワインのエチケットを欲しいというのでソムリエに頼んだら、飲んだ7本のグランヴァンのエチケットと一緒にエビアンのラベルまで剥がしてきてくれたのには笑いました。

廣瀬 ハハハ。気の利いたジョークですね。

シマジ それから面白かったのはカップルで入ってきたお客が2人並んで、まるで見せしめのようにこちらを向いて座っていました。あれは「タイユヴァン」にくるなら目が覚めるような美人とこいということなんでしょうね。

廣瀬 それはシマジさんの考えすぎでしょうけど、パリのレストランはカップルにはそういう座り方をさせますね。

ヒノ 日本では通常、女性が壁側に座り、男性は入口に背中を向けて座りますね。

シマジ いつも思っているんですが、あれはおかしいですよね。万が一暴漢が侵入してきたら危ないじゃないですか。本来は男が壁際に座って、いざという時に女を守ってやらなければならない立場なんですよ。ですから女がなんといおうと、わたしは壁際に座ることにしています。

立木 お前はマフィアみたいな男だね。ほかの客は女性を壁際に座らせているのに1人壁際に座らせているなんて目立ってしょうがないじゃないか。

シマジ ですからわたしはカウンターに座ることが多いです。

廣瀬 シマジさんはシマジ流でいいんじゃないですか。急に変えるのもヘンでしょうから。でもシマジさんの場合、そこのシェフと仲がいいでしょうから、店のほうも諦めているんでしょう。ところでよくシマジさんに連れてってもらた浅草の「田佐久」には今でも行かれていますか?

シマジ 残念ながらオヤジが体を壊して店を閉めてしまいました。あそこはえこひいきしてくれてとてもいい店だったので残念です。

廣瀬 アンコウの季節になるとよく行きましたね。

シマジ そうそう。胃袋だけのあんこう鍋を食べましたね。

ヒノ え? 胃袋だけですか?

シマジ アンコウは白身の魚だけど、胃袋がいちばん美味いんだよ。