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原発推進勢力が画策する、原発訴訟「完全封じ込め」のウルトラC!?

元裁判官が明かす悲観的な未来

日本の奥の院ともいわれる最高裁判所の「闇」を描いた小説『黒い巨塔 最高裁判所』(瀬木比呂志著)が法曹界や霞ヶ関を震撼させている。

本作では、自己承認と出世のラットレースの中で人生を翻弄されていく多数の司法エリートたちのリアルな人間模様が描かれているが、作品の中で描かれている原発訴訟の「封じ込め工作」が極めてリアルと評判を呼んでいるのだ。

福島第一原発事故以後、稼働中の原発の運転を差し止める画期的な判決や仮処分が相次いでいるが、権力側は、このような状況に危機感を覚え、原発訴訟を完全に封じ込める仰天のウルトラCを検討している可能性があるという。

原発訴訟をめぐって、今後どのようなことが起きるのか、起きる可能性があるのか、瀬木さんに話を聞いた。

瀬木比呂志(せぎ・ひろし) 1954年生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。1979年以降、裁判官として東京地裁、最高裁等に勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年、明治大学法科大学院専任教授に転身

画期的な判決はあくまで例外的

――前回のインタビュー(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50052)では、最高裁判所が、裁判官協議会などを通じて原発訴訟を電力会社に有利な方向へ強力に導こうとしている、また、操作的な人事や報復的な人事を行っているというお話をうかがいました。

しかし、実際の訴訟を見ると、今年(2016)3月にも、大津地裁(山本善彦裁判長)が、滋賀県の住民が、関西電力高浜原子力発電所3、4号機の運転差し止めを求めた仮処分申請を認め、原発の運転を差し止める仮処分を出しています。今後の動きについては、どう思われますか?

瀬木 その点についても、小説の中で1つのシミュレーションを提示していますが、現実には、大勢としては、厳しいのではないかと感じています。少なくとも、司法、政治、そして世論の状況が今のままだとすれば、そうですね。

原発の稼働差止めを認めた判決、仮処分は、福島原発後についても、おそらく、いずれかといえばより例外的なものであって、今後は、国、電力会社寄りの判決が続く可能性のほうがより高いのではないかと思います。それも、地裁より高裁、高裁より最高裁で、そういえます。

原発差止めによって日本の経済における既得権益層が失うものは大きく、また、この問題は、電力業界にとっては、ある意味、死活問題です。したがって、電力業界は、もてる限りの政治力を駆使して、原発差止めの裁判を阻止する方向で、水面下の活動を展開しているはずです。

政治としても、強力な支持基盤である電力業界の要請は無視できません。

また、福島第一原発事故後は原発の安全対策、危機管理に対して厳しい視線を向けていた世論も、最近は、「まあ、大丈夫だろう」といった方向に何となく流れてきている傾向が否定しにくいですね。原発や原発事故に関する書物を読み続け、事故の背景、日本の原発管理や原発行政の特殊性を詳しく理解している人は、それほど多くないというのが事実でしょう。

電力業界が司法に直接働きかけるようなことはしないし、チャンネルもないでしょうけれども、政治や立法を通じて司法に強い圧力をかけようとはするでしょう。

そして、残念ながら、日本の最高裁、ことに近年の最高裁には、政治と全面対決できるような気概をもった人間は、ことに幹部にはいません。むしろ、2000年ころ以降は、政治と密着してなりふり構わず自己の権益を確保しようとするような人々が増えています。

もちろん、政治の司法に対する圧力は、あからさまに外部に示されることはないでしょう。それが明るみに出たら、ただでさえ急落している日本の司法への信頼はさらに失墜して、回復不能なダメージを被ることになる。それは、政治にとっても司法にとっても得策ではないですから。

しかし、今後の原発訴訟を注意深く、かつ、長期間にわたってみてゆけば、何が水面下で行われているかは、推測できると思います。

 

露骨な人事

――現在、最高裁は原発訴訟をどのような方向に誘導しようとしているのでしょうか?

瀬木 最高裁は、福島第一原発事故以降、司法研修所で、原発訴訟についての裁判官研究会を2回開催しています。近年は、「正々堂々」と最高裁の協議会で誘導することはせず、司法研修所で、正確な記録すら外部に出さないような「姑息なやり方」で裁判官を誘導している(笑)。

こういうところ、つまり、統制が、外から見えにくい形でより陰湿に行われるようになっているのが、2000年ころ以降、「司法制度改革」以降の、裁判所の特徴ですね。

1回目は、原発事故から約10ヵ月後の2012年1月です。事故の記憶が鮮明だったこと、何よりも、それまでの原発訴訟のあり方が世論に強く批判されていたことから、この研究会では電力会社寄りの露骨な誘導はなく、むしろ、世論の猛反発に、ある程度統制の手綱をゆるめるような方向を示していました。

要するに、風向きを見ていたのだと思います。

しかし、これからさらに1年余り後の、2013年2月に行われた2回目の研究会では、強力に「国のエネルギー政策に司法が口をはさむべきではない。ことに仮処分については消極」という方向性を打ち出しています。

僕の入手している資料でも、シンポジウム形式のパネラー発言者である学者等の氏名が黒塗りされているのですが、名前を出したらその学者等の評価はたちまち地に墜ちるだろうと思われるような露骨な、国、電力会社寄りの誘導発言をしている人が大半なのです。本当に露骨です。裁判官たちの発言は限られ、また、パネラーらに迎合的なものが多いです。

また、こうした誘導に加え、最高裁は、きわめて露骨な人事で、電力会社、原発推進に熱心な時の政権に迎合的な判決を出そうとしています。

高浜原発についての、樋口英明裁判長のもう一つの差止め仮処分(2015年4月、福井地裁)を取り消した決定(同年12月)に至っては、異動してきた3人の裁判官すべてが、最高裁事務総局勤務の経験者でした。

これまでにも、最高裁は、内部の人間、それも最高裁の内情や権力の仕組みをよく知っているような人間にしかわからないようにカモフラージュした巧妙な人事や議論誘導で、裁判官や判決をコントロールし続けてきましたが、こと原発訴訟については、外部の人間でも一目でわかるようなストレートかつ乱暴な人事を強行しています。こうした人事の傾向は、実は、以前からもありました。

あるいは政治から圧力を受けているのかもしれません。例によって、忠犬のごとく政治の意向を先読みしてそれに応えているのかもしれません。