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課税をどれだけ強化しても、日本の税収が増えない理由
狙うなら、富裕層ではなくキャバクラ?

政府はこのところ富裕層に対する課税強化に乗り出している。特に重視しているのは海外に資産を持つ富裕層である。パナマ文書が話題になるなど、海外への資産移転は耳目を集めやすいテーマかもしれないが、現実には海外資産の課税を強化すれば税収が大きく増えるというわけではない。

税務調査の結果を見ると、現金のやり取りが多い業種や、近年市場が急拡大している業種の申告漏れが多いという傾向が見られる。マイナンバーの導入で所得の把握が容易になっているという現実を踏まえた場合、臨機応変な調査を行った方が、より確実に申告漏れを防ぐことができるだろう。

 

奇妙なニュース

先日、会計検査院の調査で、海外の不動産を使って節税する富裕層の増加が明らかになったという、少々奇妙なニュースがNHKで報じられた。

海外の不動産の中には償却期間が日本よりも短いものがあり、地域や物件をうまく選べば中古物件でもほとんど値下がりしないものも多い。所得の多い富裕層が、こうした海外不動産に積極的に投資すれば、減価償却の分だけ課税所得を減らすことができるというのは事実である。

日本でも減価償却を所得から控除することは認められているが、築年が古いと日本では問答無用で価格が下落し、価値の下落による損失が節税効果を上回ってしまう。

一方、米国や英国の不動産市場は非常に健全で、ニーズさえあれば物件の価格はしっかりと維持される。日米の不動産市場の質的な違いを活用した節税テクニックといえるだろう。

これが国税庁の調査ということなら特に驚くような話ではないのだが、調査を行ったのは国税庁ではなく会計検査院だという。会計検査院は通常、政府関係機関が適切に税金を使っているのかを検査する組織であり、国民に対して税務調査を行うところではない。

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ニュースでは詳しい説明は一切ないのだが、会計検査院は今月7日に内閣に提出した2015年度決算検査報告において、国内外の減価償却期間の違いがもたらす税収の変化について指摘を行っている。おそらくNHKで報道された内容は、この検査過程で出てきたものと思われる。

会計検査院の検査としてはそれほど重大ではない事案について、わざわざニュースで報道させたという状況を考えると、海外資産への課税を強化するという政府のアナウンスと解釈した富裕層は多い。

このところ国税庁など税務当局は、富裕層の海外資産に対する課税強化に乗り出している。10月には、国際課税に関する今後の方針を示した「国際戦略トータルプラン」も公表した。

すでに東京、大阪、名古屋といった主要国税局には国際課税に精通した富裕層調査の専門チームを設置しており、これを他の国税局や国税事務所にも拡大する方針だという。

政府は2014年に国外財産調書の制度を導入している。これによって海外に合計で5000万円超の財産を保有している富裕層は、海外資産の内容を記載した調書の提出が義務付けられた。2015年度については8893件の提出があったという。

これに加えて政府は、海外資産に対する相続税の課税基準についても見直す方針を打ち出している。これまで相続人と被相続人が海外に5年以上住んでいれば相続税はかからないルールだったが、これを10年に伸ばすことを検討しているという。

もしこれが実現した場合、相続税を回避する目的で海外移住する場合には10年以上滞在しなければならない。