近衛文麿(左)と東条英機〔PHOTO〕gettyimages
近現代史

軍国日本「内閣機密費」の闇を暴く 〜陸海軍から巨額の上納金

近衛と軍との密接な関係

巨額の「上納金」

GHQのW・E・エドワーズ法務官による尋問の模様をひきつづきお伝えしたい。(前回はこちら http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50161

答えるのは第二次・第三次近衛内閣(1940年7月~1941年10月)の書記官長だった富田健治である。富田はすでに近衛内閣が陸海軍から年間500万円ずつの機密費を受け取っていたと明言している。

官邸にわりあてられた機密費予算は年10万円。その100倍の計約1000万円(今の80億~90億円相当)が陸海軍から上納されていたというわけだ。

これは内閣の実質的な運営費が陸海軍の金で賄われていたことを意味する。近衛内閣が軍部の意のまま対米戦争に流されていったのもむべなるかなと言うべきだろう。なぜ、こんな歪な上納システムができたのか。

富田はその問題の核心を知る男だった。もし彼がすべてをしゃべるなら軍国日本の秘密のからくりを解き明かせる。エドワーズはそう思ったにちがいない。彼は「まず10万円の機密費のほうだが、この金はどんな経路であなたのもとに届いたのか」と訊いた。

富田は「書記官長の下にそういう役目の秘書官が一人いた。その男が内閣官房の会計係から年に2~3回、分割して受け取って届けてくれた」と答えた。

エドワーズ 「官房の会計係はその機密費をどこから?」

富田 「大蔵省から」

エドワーズ 「あなたが機密費を受け取るとき、引き換えに領収書か何か渡したのか」

富田 「イエス。書面に捺印してね。受け取った金は金庫に入れ、必要なときに取り出した」

エドワーズ 「これも10万円の機密費に限って聞きたいのだが、その金はどんな目的に使われるべきだと思っていたか? あなたの認識を教えてほしい」

富田 「日本では機密費はどの役所にもある。警察、県役所であるとか外務省や内務省といったところにもだ。業務を効果的に行うための金だから、使途が決められているわけではない。私は機密費の使い道を書いた備忘録を持っていて、それを近衛公にしょっちゅう見せていた」

エドワーズ 「それは当座勘定の記録のようなものだったのか」

富田 「いや、手帳だった。そこに1万円程度の大きな出金を書きとめておいた。2000~3000円ぐらいの金はいちいち記録しなかった。私はとても忙しくて時間がなかったから」

富田はそう答えたあとで使途についての質問に答えてないことに気づいたらしい。

「機密費は接待に使われた。官邸で開かれる公式の宴会の費用も機密費から出した」と付け加えた。

エドワーズはこの答えに満足せず、「10万円の機密費の使途についての認識をもっと具体的に聞きたい。そうすれば、私もこの相当な額の出費の性格をつかめるんだが……その手帳は今もあるのか」と訊いた。

富田は「いいや。私の東京の家は空襲で焼けたので手帳も灰になってしまった」と言った。

エドワーズ 「わかった。前の質問に戻ろう。もう少し詳しく10万円の機密費の使途についての認識を話してくれないか」

富田 「10万円の内閣機密費と、陸海軍から受け取った機密費はまぜこぜになるので、どの金が何の目的に使われたか正確に説明できない。全体としての機密費の使途についてなら、もう少し言えることがあるけれど」

エドワーズ 「それは明朝(の再尋問で)訊くつもりだ」

 
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