医療・健康・食 週刊現代
60すぎたら「やってはいけない手術」【膝の痛み編】
その原因は、実は医者も分かっていない

●人工関節はやってはいけない
●膝の水を何度も抜くのも危険
●「痛み止め」を飲み過ぎてはいけない
●ヒアルロン酸注射の落とし穴

寒くなれば関節が痛む、階段の上り下りが辛い……誰もが歳をとれば「膝」が痛くなる。だがその原因は、実は医者も分かっていない。膝痛は一生付き合っていくものだからこそ「正しい知識」が必要だ。

 

最悪の場合、足を切断

「特にこの季節になると膝が痛むので、外出も億劫になってね。膝に違和感を覚えたのは60歳を過ぎた頃でした。若いときは営業一筋でひたすら外回りをしていたので足腰には自信があったのですが、趣味のハイキングをしている最中に、急に左膝が痛み出したのです。

医者に行って膝の水を抜いてもらい、注射を打ち、痛み止めの薬を飲んでいますが、今も痛みは取れません。左膝をかばうようにして歩くため、最近では腰も痛むようになってきました」(69歳・男性)

この男性は、医者から「膝に人工関節を入れる手術」をすすめられているが、まだ踏ん切りがついていないという。

順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターの黒澤尚氏が語る。

「60すぎてから起こる膝痛の場合『変形性膝関節症』によるものがほとんどです。関節というのは骨、軟骨、靭帯で構成されていますが、年齢を重ねるごとに関節表面の軟骨は擦り減ります。この軟骨が擦り減ると、関節に炎症が起こり痛みが発生します。これが変形性膝関節症の主な病態です」

厚生労働省の報告によると、変形性膝関節症の自覚症状を有する日本人は約1000万人、潜在的な患者は約3000万人とも推定されている。

膝痛のために、映画や旅行にも行けない、ゴルフもできない。「膝の痛み」は、人生の楽しみを奪う「万病」とも言える。しかも膝痛は、自分一人だけの問題ではない。

もし歩けなくなれば、介護が必要になり、家族や周囲の人をも巻き込むことになる。
そんな「膝の痛み」を劇的に改善する治療法として喧伝され、現在広く行われているのが、膝関節にチタン合金などでできた人工関節を入れる「人工関節置換術」だ。

しかし、今回取材したほとんどの医師は「人工関節は最後の手段であり、極力避けたほうがいい」と口を揃える。

東京慈恵会医科大学附属病院・ペインクリニックの北原雅樹氏は、人工関節のデメリットについてこう語る。

「人工関節は『一生持つ』と言う医者がいますが、それは大きな間違いです。人工関節はモノですから人体と違って再生することはなく、どうしても膝と人工関節の間に隙間ができて『緩んでくる』。基本的には15~20年で取り替える必要が出てきます。日々の活動量が多い人は、さらにその期間が短くなります」

たとえば60歳で人工関節を入れて、80歳まで生きた場合、少なくとも「もう一回膝の手術をする必要が出てくる」というわけだ。さらに厄介なことに、前出の北原氏によれば「2回目のほうが手術の難度が上がる」のである。

「最初の手術では、人工関節が緩まないようにセメントやビスでしっかりと固定するのですが、入れ替える際にはそれらを外さなければなりません。これが大変で、高齢者にとっては体力的にもかなり負担が大きい。

しかも一度手術で傷んだ組織は完全には元に戻らないため、人工関節を入れ替えたことで不具合が起こり、痛みが再発してしまう危険性もある」

〔PHOTO〕gettyimages

ダメな医者ほど「すぐ手術」

もう一つ怖いのが手術による「感染症」だ。数年前に人工関節を入れたある患者は、膝関節部分に低温火傷のような傷ができ、膿が止まらなくなったという。

南新宿整形外科リハビリテーションクリニック院長の橋本三四郎氏が解説する。

「確率は高くないですが、手術をすることで、膝にばい菌が入り、感染症を起こすことがあります。水虫や歯周病の人は要注意です。そうなれば人工関節を抜いて洗浄しなければなりません。

その後、もし人工関節がつけられなくなると、残った骨で足を繋がなければならないので、足の長さが変わり、歩行もままならなくなる。感染がひどいと最悪の場合、足を切断せざるを得ないこともある」

さらに稀ではあるが、術中に血栓ができ、筋肉の中の静脈に詰まる「深部静脈血栓」や、肺の静脈を塞ぐ「肺塞栓」により死亡する例もある。

問題は、それだけのリスクを負いながら手術をしたとしても「すべての人の痛みが無くなるとは限らない」ということだ。

前出の北原氏が語る。

「手術をしてもよくならないときは、関節自体には問題なく、その周囲の筋肉が衰えているせいで痛みが発生している可能性が高い。しかし、骨の異常はレントゲンに映りますが、筋肉の痛みは映らないので、どうしても見落としてしまうのです。原因が筋肉にある場合、膝関節だけを入れ替えても痛みは消えない」

60歳をすぎた変形性膝関節症は、男性より女性に多くみられるが、それは骨粗鬆症や閉経に伴うホルモンの低下により、筋力が弱ってしまっているからだ。

膝の筋肉が衰えると、体重を支えきれなくなり、膝に大きな負担がかかる。そのため痛みがより悪化する。それを放置しておくと、やがては車椅子生活になり、寝たきりになってしまう可能性もある。実際、変形性膝関節症の人は「死亡率が高くなる」という説もある。

「そもそも慢性的な痛みというのは、ストレスや生活習慣など様々な要因がからんでいます。腰痛や首痛、肩こりが原因で膝が痛くなっている場合もある。本来、医者は患者さんの全体を診ないといけないのですが、そこまで一人の患者に時間をかけられないので『痛いなら、とりあえず手術しましょう』となるのです」(前出の北原氏)

手術以外の対症療法として、よく医者から「膝に水がたまっているので抜きましょう」とすすめられることがあるが、何度も水を抜くのはやめたほうがいい。

順天堂大学医学部整形外科先任准教授の池田浩氏が語る。

「膝の水とは関節液(関節の間にある液体)のことを指します。水がたまる原因は、滑膜炎を起こしているからです。よく『たまった水を抜くとクセになる』と言われますが、そうではなく、根本治療(滑膜炎を治す)を行わずに水を抜いても、炎症はそのままですからまた水がたまるのです。何度も水を抜いていると、感染症にかかるリスクもある。

もちろん、痛みがある場合は水を抜かなければなりませんが、痛みがないなら、無理に水を抜く必要はありません。氷などで冷やせば、自然と水は吸収されます」