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エンタメ 週刊現代
みうらじゅんと泉麻人が「グッときた」松本清張・不倫モノ映画ランキング
心理描写、映像、崖、全てがたまらない
みうらじゅん
'58年京都府生まれ。漫画、エッセイをはじめ幅広く活躍。原作の映画『変態だ』が12月10日から公開。小説や映画DVDもことごとく収集した大の清張マニア
泉 麻人(いずみ・あさと)
'58年東京生まれ。コラムニスト。テレビ番組から映画、音楽まで、懐かしい昭和の文化に精通。最新刊『大東京23区散歩』はじめ著書多数

不倫の世界は「大人のホラー」

みうら 清張映画って、「大人のホラー」なんだよね。若いうちに小説で読んだときはまったくリアリティを感じない。だけど、30歳を超えた頃に、いざ自分が不倫なんてことをしてみたら、急にグッと恐ろしくなった。

  僕は最初、町並みとか地理的な描写の細かさに惹かれて清張ファンになったけど、やっぱりそこから不倫モノの描き方のおもしろさにハマりましたね。

みうら そうなると、やっぱり清張映画のエキスを凝縮しているのが『黒い画集 あるサラリーマンの証言』。不倫してることがバレないかと心配するあまり、たまたま巻き込まれたある事件の正しい証言が出来ないという、男の焦りと悲しさ。身に染みますね。

 小林桂樹が小心で狡猾なエリートサラリーマンを見事に演じている。あと、家のシーンが生活臭に溢れているのがいい。子供がボクシング観てるシーンとか、無理に団らんに付き合って、上の空になってるシーンとか。愛人の家でアリバイ作りに観てもいない映画の筋書きを語る練習をする場面なんか最高だよ。

みうら 登場人物はみんな根が真面目な小市民だからこそ、思い悩む。そこが、底なしの「清張地獄沼」の醍醐味だもんね。家庭も地位も築くと男はつい「次に愛人」って考えがちだから。でもその結末は地獄が待ってる。これはお父さんたちにも声を大にして申し上げたい(笑)。

 不倫というテーマでは、『内海の輪』もいい。主人公が兄貴の元妻と密通して子供ができちゃう話なんだけど、旅先の景色が効いてる。

みうら 不倫旅行中のふたり(岩下志麻、中尾彬)が、空港で共通の友人にばったり出くわす。それで顔が割れたんじゃないかとやたらと気にするんだけど、相手は全然気づいてない。小心者が不倫に手を出して、余計なことをグルグル考えるからかえってドツボにはまるんだよね。

 

煩悩をリアルに描く

 三國連太郎がインポな呉服屋の旦那役で出てくるんだけど、あれは映画オリジナルだね。

みうら 勃たないけど、性欲は人一倍。布団の中から手を出して、若い女の足をずっと撫でさすったりする。妙にリアルだから、世の中にはああいう黒幕が本当にいるんじゃないかと思った。

 不倫モノじゃないけど野村芳太郎が監督した『張込み』は好きだね。刑事が、犯人の昔付き合っていた女の動向を向かいの旅館からずっと監視しているんだけど、ヒッチコックの『裏窓』みたいな面白さがある。

今回のランキングでも野村作品が大半を占めているけど、彼と脚本の橋本忍のコンビは清張ミステリーの世界を映像的にぐっと広げたよね。

みうら 清張はマイナスの観光地を作るのが抜群に上手い。崖も樹海も、自殺の名所というイメージを確立したのは清張でしょう。そういう意味では『ゼロの焦点』で殺人の舞台になる石川県の「ヤセの断崖」は清張作品に欠かせない。あと、樹海で言うと、『波の塔』('60年・松竹)ね。コレも不倫モノですから。

 帝銀事件や三鷹事件が起きた戦後の混乱期の妖しさが匂い立ってくるのも、清張映画の魅力。何と言っても印象的なのは『眼の壁』。凶悪な手形詐欺グループが子供に詐欺の片棒を担がせた挙げ句、硫酸のプールに落として殺すんだけど、最後は犯人自身も硫酸に飛び込んで死ぬ。とにかく、暗くて後味の悪い話が多い。

みうら 基本、後味の悪さと後ろめたさだもんね。観るほうもそれを期待してるし。実のところ目を見張るようなトリックや、格好いい刑事は出てこないけど、その分、人間の煩悩をリアルに描き出している。

 いまは表現的にタブーなネタも多いから、ぜひ原作も読んで欲しい。