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 FX(外国為替証拠金取引)をやっている人なら実感できるだろうが、日々の外国為替はどう動くかなかなかわからない。もし動きを読めるなら、簡単に億万長者になれるだろう。逆に言えば、誰にも読めないから、素人でも勝てるチャンスがあるのだ。

 もちろん、大学で為替理論を研究している学者はいるし、国際経済学では購買力平価理論(ビッグマック指数とも呼ばれ、両国間の物価水準の比率になるように為替が決まるという理論)やマネタリーアプローチ(両国間の通貨量の比率が為替を決めるとする理論)が有名だ。では、そうした理論で為替をどの程度予測できるかと言えば、日々の動きはまったく読めない。数ヵ月か数年の単位で見ると、為替の動きを8割方説明できるという程度で、これではFXで儲けることは不可能だ。

 だから日々の外国為替の動きについては素人でも意見が言える。よくあるのは「地震になると円安になるはずだ」という話だ。

 小松左京のSF小説『日本沈没』のように、日本全部が沈没して消滅するなら、円を持っていても意味がないので円は暴落するだろう。だが、どんな巨大地震でも日本は沈没せずに、大部分の経済活動は行われる。たしかにサプライチェーンなどが寸断されるので一時的に生産活動は低下するが、ゼロになるわけでない。

 というわけで、「地震は円安要因」というのは単なる思い込みだ。実際、阪神淡路大震災の時には円安どころか円高になったし、今年2月のニュージーランド地震でも、NZドルはいったん下落したのち、すぐに反騰している。

 今回の大震災後も、直後は円が高騰し、国際的な協調介入によって円安方向に動いたものの、再び79円台に突入するなど円高傾向に戻っている。多くの人は不思議に思うことだろう。しかし、1~2ヵ月の短期的な為替の動きはランダム・ウォークなので、正直なところ説明不可能。金融関係者はテレビや新聞でもっともらしく説明しているが、「もっともらしい」だけの代物だ。

 ただし、まったくわからないのかと言えば、方向性については6割程度の確率で説明することはできる。マネタリーアプローチでは、二国間の通貨量の比率が為替に影響する。例えばドルが相対的に円より少なくなればドルの希少性が高まり、ドル高(円安)になる。現時点で言えば、米国のQE2(量的金融緩和第2弾)は6月末で終わるから、ドルは相対的に減少し、ドル高傾向になるはずだ。

 にもかかわらず、円高になっているのはなぜか。ひとつには日銀が震災後の通貨増発方針を転換して、このところ円の量を減らしているからだ。また、米国はQE2終了後もあまり通貨量を絞らない見通しだという。となれば、今後も円高圧力が続くと見るのが自然だ。

 加えて、日本政府は復興のために国債を出して、直後に増税すると見られている。そうなると、金利が高くなる可能性があり、それは円高に作用する。これをマンデル=フレミング効果という。日本銀行が金融緩和すれば円高を阻止できるが、今のところその気配はない。実は阪神淡路大震災の時も同じ状況で円高になった。それが繰り返されるかもしれない。

 日銀の円の増発拒否の姿勢は明確なので、今後は円高に動く可能性が高い。となると、輸出の足を引っ張り、景気回復に水を差す。日本は大震災後に、政策対応のまずさで二度殺されるだろう。

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