憲法

改憲勢力が3分の2を占めたのに、なぜ改憲論議は盛り上がらないか

そもそも憲法って何ですか?
木村 草太 プロフィール

教育無償化、実現への道

もう一つ注目される憲法改正提案として、日本維新の会(旧・おおさか維新の会)による「教育無償化」が挙げられる。

維新の会は、3月に、①教育無償化、②道州制、③憲法裁判所設置の三つの事項について、憲法改正を提案している。これらは、7月の選挙公約にも盛り込まれた。

このうち、②道州制と③憲法裁判所設置は、かなり大規模な制度変更を伴うので、提案としてもまだまだ詰めなければいけないことが多い。いきなり実現に向けて議論される可能性は小さい。

他方、①教育無償化は、それらに比べれば、制度変更の規模は小さい。国民の権利を拡張するもので、国民の支持が得やすい提案でもある。維新の会自身も、改憲提案の冒頭に掲げており、これについて議論が深まって行く可能性もある。そこで、教育無償化について検討してみよう。

現在、憲法26条は次のように規定する。

【日本国憲法】
第26条
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

 維新の会は、これを次のように改め、幼稚園・保育園などの幼児段階から、大学など高等教育まで、無償の幅を広げようという提案している。

【維新の会 教育無償化憲法改正案】
第26条
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その適性に応じて、ひとしく教育をうける権利を有し、経済的理由によって教育を受ける機会を奪われない。
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。
 法律に定める学校における教育は、すべて公の性質を有するものであり、幼児期の教育から高等教育に至るまで、法律に定めるところにより、無償とする。
(下線部が改正部分。おおさか維新の会*「憲法改正原案」平成28年3月24日より)

親の経済力格差のために進学を断念する人がいる状況は、先進国としては改善していくべきだ。ただ、教育無償化は、憲法で禁じられているわけではない。それを実現する法律を制定し予算をつければ、憲法を改正せずとも実現できる。

憲法改正発議には、衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成が必要だ。それだけの賛同があれば、当然、法律が作れるし、そう簡単には廃止されないだろう。

また、憲法改正には、国民投票が必要だが(憲法96条)、その実施には850億円もの費用がかかるとの試算もある。その費用を給付型奨学金などに回した方が、有益な使い方ではないか。

維新の会も、こうした指摘を無視しているわけではなく、法律による実現も試みている。2016年9月29日には、衆議院に、「教育無償化等制度改革の推進に関する法律(案)」を提出した。法案は、予算を付けて具体的に無償化を実現するものではないが、国に対し、教育無償化を推進する責務を課すものとなっている。

 

多くの国民が望むのだから…

維新の会は、教育無償化について、多くの国民の賛同を得られると確信している。

しかし、報道を見る限り、国会内では、あまり賛同が集まっている状況にはない。主権者国民の望みを国会が邪魔しているわけだから、憲法改正手続を通じて、国民が意思を表明する機会を設けようというのが、教育無償化を改憲という形で提案する狙いだろう。

一般論として言えば、憲法改正を国民の多数派の意思で政治を動かす手段として、軽々しく用いるのは適切ではない。なぜなら、憲法の中には、多数派の意思で奪われてはならない人権を保障する規定や、その時々の多数派の独裁を防ぐための権力分立の規定もあるからだ。

ただ、教育無償化は少数派の人権を侵害するものではないから、多数派による横暴を心配する必要はそれほどない。国会がしり込みする中で、その是非を国民自身に決める機会を与えようという提案は、それなりに魅力的である。

安倍首相はかつて、「二分の一以上の国民が変えたいと思っていても、三分の一をちょっと超える国会議員が反対すればできないのはおかしいと考える方が常識ではないのか」と述べたことがある(衆議院予算委員会平成25年4月9日)。

維新の会は、多くの国民が教育無償化を望んでいるのだから、安倍首相は維新の提案に協力するのが筋だ、と迫ることもできるだろう。