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憲法

改憲勢力が3分の2を占めたのに、なぜ改憲論議は盛り上がらないか

そもそも憲法って何ですか?

2016年7月の参議院選挙で、改憲勢力と呼ばれる自民党・公明党およびおおさか維新の会(現・日本維新の会)が3分の2を占めたこともあり、憲法改正の行方に注目が集まっている。

もっとも、これまで焦点とされることの多かった憲法9条については、しばらく議論は進みそうにない。

7月の選挙では、公明党とおおさか維新の会は、9条改正に反対の姿勢をとった。自民党の選挙戦略も、「この選挙は国防軍創設選挙だ!」とアピールすることはなく、経済政策を中心としたものだった。

また、国民の義務を増やす2012年の自民党改憲草案への支持は、国民の間にほとんど広がっていない。義務を増やせば、権利は制限されやすくなるのだから、国民の反発を受けるのも当然である。

今後、議論が進むとすれば、9条や自民党草案的なものではないだろう。検討の可能性のある2つのテーマを見てみたい。

 

一票の格差問題の行方

まず、「一票の格差」について考えてみよう。

参議院議員定数242、半数改選と約半分を全国比例区に配分することを前提に、都道府県を単位とした選挙を行うと、現在の人口分布の下では、どんなに努力をしても5倍弱の格差が生じる。そうした事情を考慮してか、以前の最高裁は、6倍未満の格差であれば許容する姿勢を示してきた。

しかし、最高裁は、2010年代に入り、一票の格差について非常に厳しい態度をとりはじめた。

2012年10月17日の大法廷判決は、「都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている」とし、従来、許容範囲とされてきた5倍の格差を違憲状態と判断した。

2014年11月26日の判決でも、この態度は維持され、4.77倍の格差が違憲状態とされている。

最高裁の強いメッセージを受け、2015年7月に選挙区割と定数配分が改正された。地方の定数が都市部に配分されるとともに、島根・鳥取と徳島・高知はそれぞれ合区とされた。この改正後に施行された2016年7月の参院選では、格差は約3倍に縮小した。

これを裁判所がどう評価するかに注目が集まったが、複数の高裁が違憲状態との判断を示した。こうなると、最高裁が違憲状態を宣言する可能性も十分にある。そうなれば、さらに多くの都道府県を合区にせざるを得なくなる。

政治参加への平等な権利を実現するためには、一票の格差はなくすべきだ。しかし他方で、参議院の創設以来、都道府県が国民の意思決定の単位として尊重されてきた。合区とされた4県では不満を訴える声は強い。

この点、自民党は、7月の選挙公約で次のように述べていた。

都道府県が、歴史的にも文化的にも意義と実態を有している中で、二院制における参議院のあり方、役割を踏まえ、参議院の選挙制度については、都道府県から少なくとも一人が選出されることを前提として、憲法改正を含めそのあり方を検討します。

さらに、10月19日には、自民党の高村正彦副総裁が、合区を解消するための憲法改正を検討する姿勢を示したと報道されている。

合区解消のための憲法改正について、どう考えればよいだろうか。一票の格差に関する現行憲法の内容を確認しよう。

日本国憲法44条は、「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない」と定める。

ここから「平等選挙」の要請が導かれ、全ての人に同数の票を配分することのみならず、投票価値を平等にすべきことも要請されると理解されている。もちろん、完全な平等は、よほど特殊な選挙区割りをしない限り不可能だ。それゆえ、やむを得ない理由があれば、一票の格差が生じてもやむを得ない、とされる。

では、都道府県の単位を維持することは、やむを得ない理由だと言えるだろうか。

この点、憲法43条は、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と規定している。国会議員は、全国民の代表なので、自分が選出された都道府県の利益や意見のために活動するわけではない。

とすれば、都道府県単位の選挙区にこだわる必要はなく、それを維持するために一票の格差を生じさせることは正当化されない。現行憲法の理屈では、このようになる。

では、合区解消のためには、どのような選択肢があるか。

第一は、憲法44条を削除するというものだ。しかし、そうなれば、特定の人種、性別、宗教などを理由に投票価値を重くしたりできる。そんなことに賛成する人は、いないだろう。

第二は、参議院を国民代表ではなく、都道府県代表からなる院に改組する選択肢である。アメリカの上院やドイツの連邦参議院のように、連邦制国家では、地域代表からなる第二院が設置される例は多い。

ただし、参議院を地域代表に改組するのであれば、各都道府県選挙区の定数は、人口にかかわらず同数にするのが素直である。そうなると、一票の格差は、今の比ではない巨大なものになる。

実際、アメリカの上院では、州の人口にかかわらず等しい数の議席が割り当てられるので、人口最大のカリフォルニア州(約3700万人)と最小のワイオミング州(約60万人)で、60倍近い格差が生じている。

日本でも、人口最大の東京都(約1200万人)と最小の鳥取県(約58万人)との間で、約20倍の投票価値の格差が生じることになる。これほど大きい格差が生じるとなると、国民の理解を得るのは容易ではないかもしれない。

かといって、「人口の少ない県にも最低限1だけ配分して合区をなくす」ということでは、その原理を説明するのはかなり難しい。自民党に有利な選挙区割りをしたいだけではないか、という疑念を生むだろう。

合区解消それ自体は、検討に値すべき提案のように思われる。しかし、それが、単なる党利党略で行われるようなことは、あってはならない。合区解消のためには、多くの人が共感できる理念を提示する必要があろう。