人民元国際化のキーパーソンが唱える
「ドル基軸通貨制度からの脱却」

ベストセラー『通貨戦争』は300万部

「これはアメリカとの通貨戦争なんだ! ここで中国が負けたら、前世紀の日本の二の舞になる」

 早朝の北京.金融街。NYのマンハッタンを思わせる高層ビルが建ち並ぶ一角に位置するウェスティンホテル1階カフェに、太い声が響き渡った。

 私が早朝から金融街に足を運んだのは、旧知の某大手銀行幹部から、人民元の切り上げ問題について、話を聞くためだった。中国に現地法人を構えるすべての外資系企業にとって、人民元のレートが変わることは、ビジネスに多大な影響を及ぼす。このため、外資系企業の面々は、このところこの問題に過敏になっている。

 彼は、手慣れた様子でアメリカンスタイルの朝食セットを注文すると、開口一番こう言った。

「人民元の切り上げ問題は、短期的見方と長期的見方をする必要がある。短期的には、まもなく3~5%程度切り上げるだろう。5月下旬に、ガイトナー米財務長官以下、アメリカの閣僚クラスが大挙して北京を訪れる中米戦略経済対話がキーポイントだ。人民元は、過去5年で21.2%も切り上げてきた。数%の切り上げは問題ない」

 中国が、本格的に人民元の切り上げを始めたのは、2005年7月である。だが、この2年ほどは、1ドル=約6.8265元で固定したままだ。

 これに対しアメリカは、対中貿易不均衡の原因は、中国が人民元を不当に安く保っていることにあると反発している。3月15日には米連邦議員150人が連名で、中国を為替操縦国に認定するよう政府に要望書を提出した。米政府が中国を為替操縦国と認定すれば、中国製品に一律27.5%の追加関税がかかることになる。

 ガイトナー財務長官は当初、為替操縦国の認定結果を、1ヵ月後の4月15日までに出すとしていた。ところが4月3日になって、「結果発表を延期する」と発表。さらに4月8日には、北京を電撃訪問し、世界の金融関係者をアッと言わせたのだった。

 テーブルに、スクランブル・エッグが運ばれてきた。カマンベール・チーズが粉雪のようにかかっていて、美味である。コーヒーは、やや薄目に出す。細いベーコンを奥歯で噛み砕きながら、彼が一気呵成に吠えたのが、冒頭の発言だった。

通貨戦争の行方を占うキーパーソン

 折しも、いま中国では、『通貨戦争』という本が、続編も入れて計300万部の大ベストセラーになっている。マスコミは日々、人民元問題で反米を強調し、軍事専門紙の『軍事観察』に至っては、「中米決戦間近、どちらが第3次世界大戦の引き金を引くか」という物騒な見出しの緊急特集をやっている。

 まさに見方によっては、アメリカとの"開戦前夜"という様相を呈しているのである。

 さらに彼は、今後の米中通貨戦争の行方を占うキーパーソンとして、一人の銀行家の名を挙げた。

「中信銀行副頭取の曹彤(ツァオ・トン)だ。まだ40歳そこそこだが、『人民元の国際化』を唱える代表的論客だ。若くして中国金融界を背負って立つ逸材で、人民元の国際化問題では、このところ中国政府も、彼の説く理論に煽動されている感がある。曹の言動に注目すると、今後の展開が見えてくるはずだ」

 曹彤氏は、1990年に中国人民大学を卒業し、中国人民銀行(中央銀行)、招商銀行、中信銀行と渡り歩いた。曹氏の理論では、人民元のレート問題は、つまるところ人民元の国際化問題に行き着く。

 オバマ政権は、輸出倍増計画や医療制度改革を進めていて、これには多額の国債を発行せねばならない。しかも秋の中間選挙では、オバマ民主党は敗北が予想されており、当面、強いドルは期待できない。そんな中、中国がいま、為替を自由化して波乱の大海原に飛び込んで行くのは得策でない。

 人民元の国際化は、10年ごとに3つの段階――決算通貨として貿易に使われる第一段階、各国の資本として使われる第二段階、各国の準備預金に使われる第三段階――を経て成し遂げられるべきで、第一段階及び第二段階の約20年間は、米ドルとの為替を固定しておいたほうが得策だ、というのが、曹氏の主張である。

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