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文系でもわかる「経済数学」〜最先端の金融理論はここから生まれた!

基本から発展まで、全体を俯瞰できる

金融工学の難解理論にアプローチ

経済数学の直観的方法 確率・統計編』では、高度に発展した経済数学の本質を70点に及ぶ図・グラフを中心に直観的に理解していきます。

「確率・統計編」として、「正規分布」のメカニズムを学び、「中心極限定理」の不思議に触れ、教養としての「ブラック・ショールズ理論」を身につけていきます。

経済数学全体を俯瞰する

実は本書は2つの性格をもった本である。1つは無論,姉妹編のマクロ経済学編と対をなす形で、経済数学の「二大難解理論」のもう一方である「ブラック・ショールズ理論」について解説することが目的である。

この理論の難しさは,世の中で金融工学が話題になった時に「35歳以上の人間には理解不可能」などという台詞で広く喧伝されていたが、とにかく本書マクロ経済学編の2冊で経済学の「二大難解理論」を制覇してしまえば,経済数学全体を俯瞰できるようになるというわけである。

しかし筆者が見たところ,このブラック・ショールズ理論そのものが確率統計を学ぶには絶好の題材で,恐らく文系理系を通じてこれ以上のものはないように思われるのである。

実際これを目標に設定することで,確率統計をかなり高度なレベルまで効率良く学べるのであり,そのため本書では,むしろこれをネタに確率統計そのものを根本的に学び直すということも,同時に目的としている。

それゆえ見ようによっては,本書はむしろ『物理数学の直観的方法』の続編として,同書で抜けていた確率統計の話をまるごと補うための本だと思っていただいても良いかもしれない。

それにしても一般に確率統計の話というのは,奇妙なことに理系文系を問わず,似たような苦手意識をもっている人が少なくないように思われる。

それもかなり最初の段階の,標準偏差のあたりですでに話がわからなくなっているという場合が非常に多く,そして意外にも,文系と理系を比べると,むしろ理系の優秀な人がしばしばそういう悩みを抱きがちなのである。

もっともそれは正確な言い方ではなく,実はこの段階で,ほとんどの人が理解を断念して全面的に丸暗記に切り換えているのである。例えば「偏差値」という言葉を知らない人はまずいないが,その一方でそれをちゃんと根本から説明できる人も滅多におらず,これなどはその典型だろう。

そしてどちらかといえば文系の人のほうが丸暗記に切り換えることに抵抗がなく,すぐにそれに慣れて悩むこと自体を止めてしまうのに対し,理系の人はきちんと頭で理解しないと前進ができず,他の分野と比べてそこだけが腫れ物のように残って,確率統計そのものを嫌いになってしまうことが多いのである。

しかしそうした丸暗記は,一時は良くてもすぐに欠陥を暴露し,それらはとにかく何度学んでもすぐ忘れてしまう。

そしてその後も統計学を使う必要性は文系でも理系でもついて回るため,その都度再びゼロから学び直してはまた全てを忘れ,ということを延々と繰り返すうちに次第にトラウマとなり,もう標準偏差のシグマがどうこういう話は見るのも嫌,ということになってしまうのである。

そして最近のビッグデータの潮流で再びそれが必要となり,今度こそ標準偏差あたりまで遡る覚悟で基礎をしっかり学び直して,そこから抜け出したいという方も少なくないだろう。

しかしもし読者がそのように「標準偏差がよくわからない」という悩みを抱えていたとすれば,実はそれはむしろ健全なことなのである。

なぜかというと,この概念が確立されるまでには,数学的にも複雑な紆余曲折を経ているのだが,高校レベルではそれらを説明しきれないので,実際には難しい重要部分を最初からカットして半ば無理矢理にきれいな体系に直して教えている。

つまりその話にはもともと大きな欠損部分があるため,何の疑問もなく「わかる」ほうがむしろおかしいのである。

その意味で読者が今必要としているのは,まさにそこを教えてくれる「中間レベルの本」なのだが,世の中にこれだけ統計に関する本が多く出ているのに,そういう本となると意外に少ない。

実はそれらの解説書は全般的に二極分化していて,「やさしい統計」のように初歩の話題や個々のメソッドの使い方を丸暗記するための表面的な実用書と,高度でひどく難しい専門書の2つに分かれてしまって,それをつなぐ中間レベルの本が欠けているのである(それはブラック・ショールズ理論の解説本についても言えるだろう)。

そして「中間レベル」という話で眺めると,現在の状況は何やら筆者がまだ26歳の時に『物理数学の直観的方法』を書いた頃と酷似していて,奇妙な既視感を覚えるのであり,そのため本書にはそこを一発で埋める本としての役割が期待されているように思われる。