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アメリカが想定している「対中戦争」全シナリオ
尖閣諸島は自力で守らねばならない

米国と中国がふとしたきっかけで戦争状態に陥るケースは十分に想定される。米中両国が交戦状態に入れば、日本が巻き込まれるのは必至だ――。そう語るのは、元自衛隊最高幹部の渡部悦和氏。この度上梓した『米中戦争 そのとき日本は』から一部を紹介する。

人民解放軍はかつてない強敵である

米国は多くの戦争を経験してきたが、その主要艦艇や潜水艦が、常に脅威を受ける環境下での戦闘は第二次世界大戦を最後に経験していない。第一線の空軍基地や海軍基地(例えば在日米軍基地)が組織的な攻撃にさらされる大規模な通常戦の経験もない。

さらに言うならば、長距離攻撃能力を有する各種ミサイル兵器、宇宙戦能力、高度なサイバー戦能力、そして核兵器を保有する国の軍隊と戦ったこともない。

また米軍は、ベトナム戦争以来常に航空優勢下での作戦を実施してきたため、敵戦闘機や地上配備の防空兵器により「空での優勢が脅かされる戦争」は過去40年以上行っていない。だが近未来に想定される中国との戦争は、以上のような能力を有する軍隊との戦いとならざるを得ない。

したがって膨大な航空機や艦艇の損害、そしてこれまでにない人的損害も覚悟しなければいけない。

世界で最も戦争経験豊かな米軍といえども、陸、海、空、宇宙、サイバー空間という五つのドメインすべてで米軍に挑戦する力を備える人民解放軍を相手とする以上、その実力を侮ることはできないのだ。

〔PHOTO〕gettyimages

米中戦争を議論する上で避けて通ることができないのは、中国の接近阻止/領域拒否(A2/AD:Anti−Access/Area Denial)の脅威であり、それに対抗するべく、米海軍と空軍を中心に作成された作戦構想「エア・シー・バトル」(以下ASB)である。

このシナリオは「米中の本格的な大規模戦争」を想定したもので、第1列島線や第2列島線が戦場になっている。そのため、日本もこの米中戦争に必然的に巻き込まれていくことになる。

 

ASBに関する主要な文書は、ワシントンD.C.所在の有力なシンクタンクである戦略・予算評価センター(CSBA)が2010年に発表し、世界に大きな影響を及ぼしてきた。CSBAは、国防省と共にASBのシミュレーションを繰り返してきた実績を持つ。

ASBが対象としている年は2030年である。現在急速に台頭する中国がこの年、経済的にも軍事的にも米国に比肩ないしは凌駕する存在になっていたらどうすればよいか─この時までに中国はアジア・太平洋地域の覇権国としての地位を確実にし、このエリアから米軍を排除する意思を実行に移すかもしれない。

そうなれば、今よりさらに進化しているはずのA2/AD能力を備えた中国が、米国と本格的に衝突する可能性がある。ASBは、進化した中国のA2/ADに対し、いかに対処するかを米国が真剣に検討した末に出した、現時点におけるひとつの結論とも言える。

そしてASBは、日本にも直接的に影響を与える作戦構想でもある。先にも述べたとおり、ASBの想定するシナリオは米中対決の大規模戦争であり、第1列島線や第2列島線を含むアジア・太平洋地域を戦場とする。当然ながら第1列島線を構成する我が国も在日米軍基地を中心に戦場となる。

つまりASBについて学ぶということは、日本有事の一例、ひいては日本の防衛のありかたを学ぶ、ということにほかならない。