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宇多田ヒカルを縛り続ける「アーティスト信仰」という呪い

「90年代の夢」はもうやめません?

ヒットへの違和感

宇多田ヒカルが長きにわたる活動休止を経て8年ぶりに発売した新アルバム『Fantôme』(9月28日発売)は2016年の音楽シーンで比較的大きな話題になった。

オリコン調べでは発売初週に25.3万枚を売り上げ、4週にわたっての1位。しかもその内容は、先行配信されていたNHKドラマ主題歌のシングル『花束を君に』からもうかがえていたように、活動休止中に亡くなった母・藤圭子への思いを込めたものになっていたのだ。

さらにネット配信のiTunes Storeでは日本のみならず世界各国で盛んにダウンロードされたことが注目され、たとえばビルボードジャパンは9月29日に「全米では日本人女性ソロアーティストとして初の6位にランクインし、ヨーロッパでもフィンランドで1位の快挙となった」と報じている。

もちろんこうした結果はファンとして喜ばしいことに違いない。しかし、この報じられ方には、何か引っかかるものがある。日本で最も有名なミュージシャンである彼女の扱われ方には、日本の音楽シーンの複雑な現状が、如実に表れてしまっているように感じられるのだ。

 

たとえば初週25.3万枚という売り上げは今どきには十分に立派な成績であるが、1999年に発売された宇多田ヒカルのデビューアルバム『First Love』の初週売り上げは202万枚。実に8倍近い枚数だ。

しかし『Fantôme』に対する世間の好意的な評価を見ると、必ずしも宇多田ヒカルが人気を失ったということではないはずだ。というのも、実は『First Love』がリリースされたのはCDのセールスが全盛期の直後。つまり、その時代から比べるとCDリリースを中心とした音楽産業自体が、驚くほど小さくなってしまったというわけだ。

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不可思議な表現が…

そして、iTunes Storeでのネット配信の評価については、日本の音楽文化の奇妙な執着心が色濃く反映されている。はっきり言えば、ここにあるのは国内で大人気となったアーティストがなぜか必ず背負わされてしまう「世界進出」への過度な期待があるのだ。

ビルボードが書いた「全米で6位」というのは誇らしい記録として、ほかにも様々なメディアで報じられた。が、この報道はよく見ると「日本人女性ソロアーティストとして初」という、奇妙に限定的な書き方なのだ。

そんな書き方をされたのはなぜか? 実はiTunes Storeでは、今年4月に発売された日本人グループBABYMETALのアルバムが、全米総合チャートで3位になっている。つまり、少なくとも配信の上では日本人アーティストが国際的に注目されることは初めてではないし、もう珍しいことですらないと言ってもいい。

そもそも、そうしたセールス記録にばかりこだわること自体が、もはや今の時代、今の音楽シーンに似つかわしくないのではないかとすら思える。

にもかかわらず、CD売り上げではなくわざわざ配信の数字を持ち出してまで、しかも「グループではなくソロの女性歌手として初」と限定しながら、なんとか「宇多田の快挙」を祝おうとするのは、どことなく空しさを感じる。