野球

メジャーリーグの敏腕エージェントが教えてくれた「一流の気遣い」

ベースボールでビジネスがわかる⑧

元メジャーリーガーの長谷川滋利が、日米野球とビジネスを徹底比較する連載。今回は言葉は知っていても、その仕事の詳細は把握されていない「エージェント」にフォーカスしてみました。天文学的な数字が動くメジャーの敏腕エージェントはどんな活動をしているのでしょうか。

 

トム・クルーズが最高の手本

日米ともにシーズンが終わり、契約公開の時期が近づいています。

時々、エージェントってどういう仕事ですか? という質問を受けます。そういう時、僕はまず「『Jerry Maguire』(邦題:『ザ・エージェント』)とほとんど同じですよ」と答えます。ちょっと古い映画(96年米)ですが、若手エージェント役のトム・クルーズがいい演技していましたね。

もちろんあれは映画なので、多少、ドラマチックに描いていますが、人の心の機微や駆け引き、ちょっとダーティーな部分も含めてトム・クルーズはエージェントの苦悩をうまく表現していたと思います。

現役時代、僕に初めてついてくれたのはエド・クラヴィン(故人)というエージェントでした。彼は野球選手も何人か見ていましたが、当時はアナウンサー中心にエージェント業をしていたみたいですね。アナウンサーは安定して仕事をとれるので、契約交渉がスムースに進むと聞いたことがあります。

ただ、彼はそこまでの大物エージェントというわけではありませんでした。今でこそ、アレックス・ロドリゲスや、日本人では松坂大輔投手を手がけたスコット・ボラス、松井秀喜氏の代理人でもあったアーン・テレム(現在は転職している)などの敏腕エージェントの名前を報道で見かけるようになりましたが、僕がメジャー移籍した時は、アメリカで日本人が活躍するかどうか未知数でしたし、多額のお金も動かなかった。

乱暴な言い方をすると、そんな小商いにビッグネームは出てきません。移籍金100万ドルの選手も2000万ドルのスターも、やることは基本的には一緒ですから、それなら数字の大きいほうに彼らは取り組みますよね。どの世界も共通です。

でも、僕の場合はそれに救われましたね。クラヴィンは野球界では決して有名なエージェントではなかったけれど、誠実なナイスガイでした。また、彼が手がけているアナウンサーのほとんどは3月あたりが契約更改らしく、野球界のシーズンオフは僕のために時間をとってくれて、じっくり話を聞いてくれました。1年目で不安ですし、僕の時は今のように日本人のメジャー移籍の前例がなかった。だからそれはありがたかったですね。

何度もミーティングを重ねた結果、「まずはお金より、日本人にとって住みやすい街で生活環境を整えて野球に集中しよう」という結論になり、西海岸の数チームにしぼりました。オークランド(アスレチックス)、ロサンゼルス(エンゼルス/現在のロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム)、シアトル(マリナーズ)と交渉してくれて、エンゼルスを選んだわけですが、いま考えると「あれで良かったんやな」と思えます。

というのも、例えば、僕ものちに契約したような大きなエージェント会社、オクタゴンのエージェントだったら、それなりに大きなお金を動かさないといけない。彼らは僕が1年目だろうとなんだろうと、大都市の人気チームとそれなりの金額で交渉する可能性が高かったかもしれません。そこで得るチャンスを自分がしっかり活かせたか、といえばちょっと分からないですね。

だからチーム選びの前にエージェント選びはメジャー移籍をする日本人選手にとって、とても重要になってきます。