規制緩和・政策

アベノミクスは限界を迎えた? 黒田日銀の「ホンネ」と「言い分」

「失敗、ではなく終結と言ってほしい」

「敗北」とは言わないでほしい

「『敗北宣言』というより、せめて『終結宣言』としてほしい。われわれの気持ちとしては」

筆者が現代ビジネスに執筆した「黒田日銀総裁まさかの『敗北宣言』は、アベノミクス終焉の前兆か」(9月23日付)を読んだ日銀幹部の一人は、筆者の取材に、こう自嘲気味につぶやいた。
 
日銀は11月1日の金融政策決定会合で、物価2%目標の達成時期を「2017年度中」から「18年度ごろ」に先送りした。このことは日銀総裁、黒田東彦の任期中に、物価目標の達成が難しくなったことを示している。
 
そして、黒田はついに追加緩和には動かなかった。これまでなら、物価上昇の動きに鈍さがでるたびに、追加緩和への期待が市場に渦巻いた。ただ、今回は、そうした期待は市場には微塵もなく、日銀の金融政策への視線は冷め切っていた。
 
「できることは何でもやる」「戦力の逐次投入はしない」
 
デフレ脱却に向けて異次元緩和を推進する威勢の良い言葉は黒田の口から消え去った。9月23日に日銀は、異次元緩和の「総括的検証」を公表、「長短金利操作付き質的・量的金融緩和」という新しい金融緩和の枠組みを導入した。これまでの量的緩和、質的緩和とマイナス金利に、10年物国債の利回りをゼロ近辺に誘導するという新たな操作目標を加えた。

日銀の金融政策は、数々の緩和手段で飾り立てられたが、事実上の「異次元緩和の終結宣言」だった。
 
それから1カ月余り。日銀の金融政策への市場の期待感は一気に萎んだ。異次元緩和の急ブレーキは日本経済に何をもたらすのか。『黒田日銀 最後の賭け』(文春新書)の小野展克が分析した。

 

黒田日銀は、ラッキーだった 

日銀幹部は、なぜ敗北宣言ではなく、「終結宣言」という言葉にこだわったのか。それは、総括的な検証でも示された異次元緩和の成果への自負があるからだ。

異次元緩和以降、株価は上昇トレンドを描き、為替相場は円安に進んだ。失業率も急速に低下した。アベノミクスの実質的な成果は、その大半が黒田日銀の異次元緩和によってもたらされた果実だ。安倍晋三内閣の安定した支持率を支えた大きる柱は、異次元緩和だったと言っても良いだろう。

その点を踏まえた上で、ここにきて黒田日銀が異次元緩和のブレーキを踏んだ意味を読み解いてみたい。

【PHOTO】gettyimages

まず足元の市場動向から確認しておこう。ドル円相場は、ここしばらく1ドル=100~104円を中心とした水準で推移している。

直近3ヵ月、ドル円の購買力平価の推計はIMFが1ドル=103円、世界銀行が105円、OECDが106円の近辺で推移しており、購買力平価からかい離した水準にはなっていない。日経平均株価(225種)は「トランプ大統領の実現」への警戒感が一部にあるものの、1万7000円を軸とした水準を維持している。
 
注目の米大統領選はクリントン候補のメール問題の再燃で、支持率ではトランプ候補がクリントン候補に肉薄しつつあるが、実際の州ごとの票読みでは、クリントン候補の勝利は揺るがないとの見方が支配的だ。日経平均株価(225種)は「トランプ大統領の実現」への警戒感が一部にあるものの、1万7000円を軸とした水準を維持している。
 
米連邦準備理事会(FRB)は11月2日に公表した米連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明文で、12月13~14日に開く次回会合での利上げを示唆したことも、円高への警戒感を薄めている。英国のEU離脱など欧州経済の先行き不透明感、中国経済の減速リスクはあるものの、米国経済は安定しており、世界的に落ち着いた市場環境となっている。

「異次元緩和が限界を迎えた時に、世界経済が比較的安定していたことは、黒田日銀にとって非常にラッキーだった。黒田総裁は好機をとらえて、急ブレーキを踏んだのでしょう」
 
大手銀行の幹部は、こう分析する。