大統領選
アメリカの新大統領がどちらになろうが、日本経済の将来に憂いはない
日本頼みになる世界経済、その理由はコレだ!

「嫌われ者同士の戦い」と言われているアメリカ大統領選の投票日を迎えた。

3回に渡るテレビ討論会では、「選挙結果を受け入れない」「女性を豚、犬、怠け者などと呼んでいる」などといった過激な言葉が飛び出すなど、両者一歩も引かない大激論が交わされた。

泡沫候補といわれていたトランプが何故ここまで支持されるのか、われわれにとっては理解しがたいところでもあるが、言いにくいことをズバリ本音で語るトランプに共感するアメリカ国民が大勢いる事実は、現在のアメリカの状況を物語っている。

さらに、「トランプの躍進」は、今年6月に起きた「イギリスのEU離脱」というサプライズに密接な関係があると、国際経済アナリストの長谷川慶太郎氏は、自著『最強の日本経済が世界を牽引する』(KADOKAWA)で力説する。

本稿では、その背景を明らかにしつつ、変容しつつあるグローバル経済に対する日本の立ち振る舞いについて、同書より一部抜粋し解説する。

アメリカが抱える根深い問題

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泡沫候補と言われていたトランプがこれほどの支持を集めるに至った背景に、現在のアメリカが抱える深刻な社会問題がある。

現政権で国務長官を務めたヒラリーが大統領に選ばれれば、オバマ政策をある程度引き継ぎ、何をするか未知数のトランプパニックは起こらない。金融市場は安定しFRBによる段階的なアメリカの金利上昇にも現実味が増してくる。しかし、トランプを支持する40%以上のアメリカ国民の本音は違うと国際経済アナリストの長谷川慶太郎氏は自著『最強の日本経済が世界を牽引する』の中で、こう解説する。

――彼らの望みは単純である。

「税金を減らせ」「国内の農家を助成しろ」「公共事業をちゃんとやってくれ」「世界の警察官なんか降りてくれてかまわない」「外国に金を使うな」。

自国がこの状態なのに、理想ばかり掲げて「世界平和」のために重い負担を負っている場合か、ということだ。

トランプが掲げる「強いアメリカ」というのは、「世界の秩序を守るための強さ」ではなく、「自国そのものの強さ」という「内向きの強さ」である。

だからこそ、トランプは支持された。

知識層、都市部の「自称リベラル」からは、差別主義、暴言、妄言の連発と非難されても支持されたのは、メキシコからの不法移民、過激なイスラム教徒のテロによる脅威がもはや手がつけられない状態になっていることへの不満が爆発寸前である、ということが背景にあることはもちろんだ。

オバマ大統領が訴えた「チェンジ」は当選時点では多数を占めて受け入れられたが、有権者たちのなかにあったこうした心情は変わらなかったどころか、ますます強まっていた。

歴史に残る初のアフリカ系大統領が掲げた理想は、政策の上でほとんど実現することはできなかった。――

オクトーバーサプライズとして再びヒラリーのメール問題が飛び出し、FBIは訴追をしないことを発表したとはいえ、支持率は僅差のまま投票日を迎える。ヒラリーを信用していない米国民は大勢いるのが現実だ。

オバマ大統領が実現させた国民皆保険制度「オバマケア」は事実上破綻し、医療者からも患者からも不満が噴出している。格差は広がり続ける一方で、テロの恐怖が軽減される気配もない。

オバマ政権の国務長官であったヒラリーが大統領になったところで「オバマケア維持」「銃規制強化」などという政策に懐疑的な見方をするアメリカ国民も多いのが現状だ。

――農業、建設業、製造業など、古くからある形態の産業に従事する白人たちのまさに「言いにくかった本音」を、トランプの一見「暴言」に思える主張はすべて代弁していたのだ。それが「まさか」の大躍進につながった。これがアメリカの現実である。

美辞麗句に飾られた、いかにもアメリカ的な演説に飽き飽きしているときに、リアリティのある本音をぶつけTPPからの脱退を早々に掲げたトランプが、彼らの支持を集めたのは当然だ。

この動きを読み、対立候補のヒラリーもTPPについては「現状の基準では支持できない」と表明はしているものの、彼女は国務長官時代、TPPの推進役でもあった。その「転向」についても懐疑的になる有権者が多いのは当然だ。――

行き詰まるグローバル経済

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「自国ファースト」の流れから、イギリス国民が選んだEU離脱という「事件」は、トランプ支持層の不満と共通する部分が多分にある。

ヨーロッパでの多発テロ事件、大勢の移民流入、失業の不安、家賃の高騰など、イギリス国民が国民投票で出した結果は必然だったのであろうか?

――イギリスの有権者が「EUに残留する意味がない」と判断を下したのは、アメリカの有権者が「世界の警察官はさっさと降りたい」と望んでいる事実と同じ流れの中にあるということだ。

移民問題もここへ来て、有権者にとって耐え難いものになってきている。ビザ不要なEU域内での移動はどんどん増えた。それが各国の共存共栄につながればけっこうなことだが、結局貧しい国、賃金の低い国から、イギリスに多くの人間が流入するようになったのだ。ルーマニアやブルガリアの平均月収は5万円前後しかないと言われる。しかしイギリスなら、5倍もの金を稼ぐことはできるのだ。さらに、福祉政策も充実しているため、イギリス人でなくても無料で公立の学校や病院で教育・医療を受けることが可能なのだ。

その結果、イギリスには年間20 万人近い人がEU圏内から移住。たとえばイギリスに住むポーランド人にいたっては、04 年に7万人だったものが11年には69万人に膨れ上がっている。EU以外からの移民を含めると年間30万人と言われている。イギリスの人口は15年だけで50万人も増加しているが、そのうち3分の2は移民による増加だ。

イギリス人たちの生活に何が起きたかといえば、病院や学校が対応しきれなくなったこと、住宅の不足、交通機関の大渋滞、家賃・不動産の高騰。

移民たちのなかには英語も話せない、特別の技術、教育を受けていない人も多いが、同時に、エンジニア、医師などの高学歴のインテリも数多く含まれている。バルト三国の理系公立大学出身者は、その3分の2が、卒業と同時にイギリスに渡る。医師、薬剤師などの医療関係者は土木、水道など公共事業に貢献できる技術者の卵たちだ。

自国で就職するより、イギリスで働いたほうが賃金は3~5倍も高いのだから、国を出る者が増えるのは当然だ。彼らがイギリスの労働市場を圧迫している。イギリスのインテリの不満が大きくなったことも、国民投票の結果に直結しているのだ。

世界の経済は、自由主義の時代が来てその後に保護主義の時代、そしてグローバリゼーションの時代へと拡大するという歴史をたどってきた。自由主義と保護主義の間を繰り返してきているが、グローバル経済もまた行き詰まってきた。

単に歴史が繰り返し、再び保護主義政策に後戻りするというだけのことではない。

経済体制の変化が起きるというよりも、国民=買い手側が、売り手側=既存の政治体制に対する拒否を突きつけているのだ。

その典型例がEUである。EUという体制は、単なる経済的な枠組みではなく、東西対決を裏側に持つ古い政治体制の象徴なのだ。それをもはや容認はできない、ということを買い手側が表明したのが、今回の国民投票の結果だった。

売り手はもはや買い手の論理を、力や美辞麗句で抑えつけることができなくなった。――

混乱を極める中での日本の立ち位置

今の金融市場には「4C」と言われるリスクがある。それはChina(中国)、Commodity(国際商品)、Crdit(信用)、Consumption(消費)だが、日本経済はこのリスクを乗り越えられるのであろうか?

確かに日本は、アメリカやEUほど移民問題やテロの恐怖は少ない。だが、デフレ脱却に足ぶみ状態、2%物価上昇を目指すも2018年度に先送りされた。好景気と言えるような気配は毛頭ない。

――中国リスクの深刻化、アメリカの景気減速、政治的混乱、さらにイギリスのEU離脱に伴うEUそのものの解体、といった重大な「変化」が起きてもなお、日本経済は盤石である、と私は考えている。

そうした日本の強さに、世界はとうに気がついている。長期資金をこれだけ持っている国は日本をおいてほかにないことは誰もが知る事実である。

10年物国債の利回りは桁違いに低い。これが何を意味するかはおわかりだろう。国債というのは市場で取り引きされるので「需給バランスのみ」で価格と利回りが決まる。つまり買われれば買われるほど価格は上がり、利回りは下がる。売られれば、価格は下がり、利回りが上がっていく。信用が不安視され、ある国の国債が売りまくられれば、価格は暴落、そのぶん利回りは上がっていくという仕組みになっている。

つまり、長期国債の利回りが低いということは、世界中がその国の経済に信頼を置き、強さを確信しているということである。安定した金融資産として「買いたい」という人が増えるから、価格が上がるのだ。信用のない国の国債は、利回りを高くしなければ、買う人などいるはずもないということだ。

日本がなぜ長期資金を保有することができたのか、と言えば、それは日本が世界の先進国のなかで唯一「本格的デフレ体制」の準備をしたからである。それはもちろん、あの「失われた20年」と言われた期間において、である。

日本の銀行は不良債権を間接処理、直接処理していった。その結果として、日本は「失われた時代」に苦しみながらも、地道に金融市場の安定を具体化していったのだ。

今の段階で、世界で安定した金融市場を持っているのは日本だけである。――

「失われた20年」は確かに苦しい時代であった。銀行は合併して店舗を減らし、大鉈を振るって身を削ってきた。他の企業もリストラをし、デフレに対応しながらコストカットして必死に耐えてきた経験がある。

――EUの解体が来年なのか5年後なのかは予測しきれない。また、トランプかヒラリーが大統領に選出されるにせよ、大量の余剰資金、つまり自由になる金を持っている日本はその一点のみをもってしても、非常に強い立場にあると考えて間違いがない。

ただし、そこには条件がある。ここまではそれなりの成果を上げた安倍政権の、いわゆる「アベノミスク」、つまり金融政策、財政政策、成長戦略の中身を変えていく必要がある。デフレ脱却の掛け声より、むしろデフレ下で強い経済を模索すべき時期に来ているのである。――

仮にトランプが大統領に選ばれれば、世界経済は一時的にせよパニックとなる。円高、ドル安、世界同時株安が起こり、景気回復がさらに遠のくであろう。

一方、ヒラリーが大統領になれば、トランプを支持していたアメリカ国民の不満はそのまま燻り続けることも考えられる。

しかし、トランプになろうがヒラリーになろうが、民主党であれ共和党であれ、これまで政権が変わったとたんにアメリカの政策が激変したということはほぼないと言ってよい。

デフレ時代を何とか乗り切ってきた日本経済は、長期的に見れば優位に立っている。デフレ脱却の掛け声より、インフラ投資、研究開発への投資を続ければ、日本経済の将来の憂いはない。