その筋の親分に連れて行かれた「日本一の煮込み屋」その忘れがたき味
島地勝彦×廣瀬恭久【第1回】

撮影:立木義浩

<店主前曰>

かの有名なワイン専門商社「エノテカ」会長の廣瀬恭久さんとはこのところご無沙汰していたのだが、ちょっと前まで、彼はわたしの食の“共犯者”であった。

わたしは美味いお店をみつけると必ず廣瀬さんを道連れにしたものである。浅草の鷹匠寿、田佐久、江古田のやっちゃん……そこではいつも“シマジスペシャル”を2人で唸りながら食べた。ワインはいつも廣瀬さんがプライベートカーヴから持ってきた自慢のグランヴァンであった。

廣瀬さんと会わないうちに、わたしはすっかりシングルモルトに淫してしまいワインの方もご無沙汰気味なのだが、旺盛な食欲は衰えていない。久しぶりにまた“食の冒険”を再開しようじゃないかということで、2人の対談は幕を開けた。

* * *

シマジ タッチャンとは昔、広尾の「エノテカ」というレストランに行ったことがあると思うんだけど、こちらがその「エノテカ」の廣瀬さんです。

廣瀬 廣瀬と申します。今日はよろしくお願いします。

立木 立木です。こちらこそ、よろしくね。

シマジ じゃあ、まずはネスプレッソを淹れましょうか。

廣瀬 ぼくはネスプレッソの愛好家ですよ。うちでも毎日飲んでいます。

シマジ そうでしたか。このマシンは最新式ですよ。今日の謝礼として後日お贈りしますから、是非使ってください。

廣瀬 これをいただけるんですか。女房が喜びます。ありがとうございます。うーん、香り高くて美味しいです。

立木 エノテカは銀座にもお店があるよね。

廣瀬 はい、銀座にもあります。

立木 バンバン儲かっているんでしょう。だってお顔がバブリーですもん。

廣瀬 いやいや、そんなことないですよ。

シマジ タッチャン、廣瀬さんは日本にワインブームを起こした男ですよ。いまや全国に約60店舗、海外にも16店舗を構える優良企業なんですから、儲かってないワケがないじゃないですか。

廣瀬 いやいや、そんなことないですって(笑)。

立木 シマジ、この裏切り者! お前はさんざんっぱらワインがなんだって偉そうなことをいっていたくせに、突然、シングルモルトに宗旨換えしやがったじゃないの。

廣瀬 たしかにいまのシマジさんはシングルモルトの人みたいになっていますが、以前はワインしか飲まなかったですよね。

立木 こいつは流行に弱いんですよ。

廣瀬 シマジさんはたしか、ソムリエスクールにも通われていましたよね。女の子にモテるためにワインを勉強するんだっていってませんでした?

シマジ いやいや、ちがいますよ。サントリーのソムリエスクールには行っていましたけど、あれは自分のために勉強したかったんです。

立木 シマジ、お前の考えることなんて全部バレているんだよ。

ヒノ そもそも廣瀬さんとシマジさんはどれくらい前からのお付き合いなんですか?

廣瀬 そうですね、わたしがワインの商売をはじめたのが1989年ですから、もう27年前になりますか。当時シマジさんは集英社の広告部の担当役員で、肩で風を切ってブイブイいわせていたころです。

シマジ そうだ。思い出した。マガジンハウスの石川次郎に廣瀬さんを紹介されたんだった。

立木 まだレストランはやっているの?

廣瀬 レストランは残念ながら、2004年に全部やめてしまいました。

シマジ あなたの下で働いていた素敵な若者がいましたよね。

廣瀬 ああ、浅原ですね。

シマジ そうそう、浅原。彼は元気ですか?

廣瀬 彼はいま自由が丘で自分の店をやっています。ほかのみんなもそれぞれ独立して頑張っていますよ。でも、レストランビジネスは傍目には華やかにみえますが、けっこう大変でした。

シマジ なかなか儲からないらしいですね。

廣瀬 はい、そうなんです。

シマジ いい食材を用意しようとすると当然、原価率が高くなって値段を上げないとやっていけないし、そうすると今度はお客がこなくなるという悪循環に陥ってしまうそうですね。オーナーシェフはみんな頭を抱えています。

立木 シマジはオーナー面で食べているからシェフたちにこぼされるんだろうね。