人生にも似ている? 「サイクルロードレース」の魅力を徹底解説!
知るほどにハマる奥深い世界

人生にも似た競技スポーツ

先日、東日本大震災からの復興イベントとして始まった「ツール・ド・東北」と「ツール・ド・三陸」にそれぞれ参加して、自転車で三陸沿岸部を走ってきた。ともに順位やタイムを競わない、ファンライド形式のイベントだ。

沿道では地元の人たちが手を振りながら笑顔で応援していたり、エイドステーション(休憩所)では地域のグルメが提供されたりと、全国から集まったライダーたちは、文字通り心からライドを楽しんでいた。

こうしたファンライドとは違う本格的なサイクルロードレースで、選手たちは、競技中に何を考え、何を思って走っているのか。その状況が手に取るようにわかり、自分でレースを走っているかのような錯覚に陥るドキュメンタリーが『エスケープ』だ。

本書の舞台は、2014年6月に岩手県の八幡平で行われた全日本選手権ロードレースである。このレースで日本チャンピオンになった選手は、1年間、ナショナルチャンピオンジャージの着用が許される。その後もジャージの袖にナショナルチャンピオンの証を入れることが認められており、いわばレジェンドが決定するようなレースだ。

 

本書の著者は、執筆にあたって電話や書面でのインタビューは避け、レースに出場した多くの選手に可能な限り会い、対面で取材したとのこと。その成果が行間から浮かび上がり、虚飾を排した簡潔な文章によって、異様なまでの緊張感を伴って迫ってくる。ヨーロッパでは人生に例えられるというサイクルロードレースほど、複雑な要素が絡み合うスポーツはないかもしれない。

チームの戦略、選手個人の役割や思惑、互いの駆け引き、暗黙のルール、気象条件の変化、思わぬアクシデント、個々の選手が背負っている人生。そうした混沌とした背景が、本書では見事に描かれている。しかも、優れた入門書として読めるのもいい。

これ1冊でサイクルロードレースとはどんな競技なのか、その本質を理解できる内容になっているのだ。これまで自転車に関心がなかった読者も、本書を読めばいっぺんでロードレースファンになってしまうだろう。

台湾メーカー興隆の理由

選手たちが乗るロードレーサーというタイプの自転車は、車で言えばフェラーリやポルシェのようなスーパーカーと一緒である。そんな夢のマシンを、その気にさえなれば、誰でも買って乗ることができるのだから、実に幸せなことである。

そんな夢の自転車を製造しているメーカーはまさに百花繚乱、世界中に星の数ほど存在している。その最大のメーカーが台湾の「ジャイアント」だ。

年季の入ったサイクリストは台湾製と聞くと眉をひそめる傾向があるようだが、台湾の製造業の技術力は極めて高い。自転車に限らず、様々な工業製品のOEM生産を受託しているのはもはや周知の事実である。実際、私が乗っている自転車も、ヨーロッパブランドではあるのだが、フレームには「made in Taiwan」の文字が入っている。

多くの台湾企業と同様に、当初はOEM生産でスタートした「ジャイアント」が、いかにしてOEMメーカーから脱して自社のブランドを確立し、世界最大の自転車メーカーにまでなったのか。

銀輪の巨人』は、創業者である劉金標(73歳の時に台湾一周を果たしている。もちろん自転車で!)へのインタビューを起点として、製造業に代表されるものづくりとは結局何なのか、その本質や社会的な背景、文化までをも鮮明にあぶり出している。

本書を読みながらどこか既視感のようなものを覚えていたのだが、日本の自動車産業の発展と重なる部分が多い。その自動車に先んじて、かつての日本は自転車の最大生産国であった。それが今は見る影もない。電子部品や家電産業も苦戦を強いられている。そうならないための重要なヒントが、本書には隠されているように思う。

ところで、そもそも自転車という乗り物は、どのようにして生まれ、発展してきたのか。その来歴をユニークな視点で楽しめるのが『夢のロードバイクが欲しい!』である。

何がユニークかというと、極め付きの自転車愛好家でもある著者が、世界中でたった一台の、自分にとって最高のロードバイクを手に入れたい、という夢を実現するため、国境を越えて世界を旅するのである。

ロードバイクには、完成車で購入する以外に、自分の好みのパーツを組み合わせ、オリジナルの一台に仕上げることができるという楽しみがある。それによって劇的に性能が変わるわけではない(性能のほとんどはエンジン、つまり乗り手の問題)のだが、それでも世界で唯一無二の自転車という魅力に抗うのは難しい。

本書の面白いところは、著者と一緒にパーツ探しの旅をすることで、いつの間にかちょっとした蘊蓄を語れるくらい自転車に詳しくなっていることだ。のみならず、自転車の普及が女性解放運動と密接な関係があったなど、自転車の発展が社会に及ぼした影響にも折に触れて言及してあり、いっそう興味深い1冊に仕上がっている。

『週刊現代』2016年11月12日号より