デビュー10年の集大成!森見登美彦「夜の不気味さを味わってほしい」

これまでの代表作を超える

『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』など、数々のヒット作を生み出してきた作家の森見登美彦さん。

デビュー10年の集大成として手掛けた新作『夜行』は、これまでの代表作を超えるとの評判も高い。

そんな新たな「森見ワールド」の魅力ついて、ご本人に話を聞いた。

 

鉄道旅行が執筆のきっかけ

―学生時代の仲間と10年ぶりに「鞍馬の火祭」に行くことになった大橋は、京都で、かつて失踪した友人に似た女性を見かけます。

追いかけた先の画廊で出会ったのが、画家・岸田道生による『夜行』という銅版画。その夜、再会した仲間全員が旅先で『夜行』に出会っていたことが判明し、彼らが遭遇した怪異が次々と語られていく本作。森見さんにとっても10年ぶりの怪談です。

書き始めたのは'09年ですから、ずいぶん時間がかかってしまいました。連載の話をいただいた当時、担当編集者と一緒に、仕事とは関係なく鉄道に乗ってあちこち旅行をしていたので、せっかくだからそのエピソードを生かして「旅先の怪談」を書けないだろうかと思ったのがきっかけです。

私の小説はどちらかというと賑やかで愉快なものが多いのですが、ときどき、頭のちがう筋肉を使いたくなってしまうんですよね。当初は独立した短編として書いていたものを、単行本化するにあたって1つの物語にまとめなくてはならず、結局ほとんど書き下ろした形になりました。

作家デビュー10周年企画として刊行するはずが、3年も延長してしまいました。

―48枚あるという連作の銅版画『夜行』の副題にはそれぞれ地名がつき、どの絵にも一人の女性が描かれています。尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡、そして鞍馬。

章ごとに、5人の仲間が旅先で遭遇した『夜行』と、そこで起きた怪奇について語り、やがてそれが失踪した女性の謎に繋がっていきます。

もともと夜行列車が好きで、銅版画の題を『夜行』にしました。津軽の章では、上野と青森をつなぐ『あけぼの』に乗る描写がありますが、あの列車は特に好きです。

夜中に駅を出発するときのさみしさや、部屋の明かりを消して外の景色を見られるのがいい。冬は、まっくらな中で突然雪のまばゆさが視界に広がり、車内に光が差し込んでくる。まさにトンネルを抜けるとそこは雪国。ふだん見られない景色を味わえるのが醍醐味です。

鍵となる絵を銅版画にしたのは、学生時代、京都の国立近代美術館で長谷川潔という方の作品を見たから。まるで時間が止まってしまった、永遠の夜を連想させるような不思議な絵で、本作を書くイメージの元になっています。

―森見さんの小説は、「夜」が舞台になることが多いですね。

異界と近づく時間帯という印象なので、想像力を刺激されるのでしょう。型どおりの日常が揺らぐ一瞬が夜には潜んでいて、不意に隙間から奇妙なものが顔を覗かせてくる気がするんです。それは宴会や祭りも同じ。

本作のしめくくりは火祭ですが、それも「何が起きてもおかしくない」舞台にふさわしいと思っていたからかもしれません。

実際は、むかし編集者と火祭に行ったとき、鍋を食べるのに夢中になっているうちに祭りが終わっていたことがあって、それがアイディアの元になっています(笑)。

誰も祭りに行こうとしないという設定を考えたときに、怪談を語り続けてタイミングを逃す彼らの姿が浮かびました。