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「初代総局長は日本人」インターポールのサイバー部門に潜入!
独占インタビュー【前編】

国境を超えた犯罪と日々闘うインターポールに、サイバー犯罪対策に特化した組織が誕生し、そのトップに日本人が就任したことをご存じだろうか? ジャーナリストの山田敏弘氏がシンガポールへと飛び、初代総局長・中谷昇氏に独占インタビューを行った。

初代総局長に就任した理由、サイバー犯罪の最前線で起こっていること、そして、日本のサイバー対策への懸念について、中谷氏が驚きの世界を明かす――。

日本人が、なぜ初代総局長に?

2016年2月、バングラデシュを舞台に、史上最悪規模のサイバー犯罪が発生した。

バングラデシュ中央銀行がサイバー攻撃に見舞われ、同中銀がニューヨーク連邦準備銀行に開設していた口座から、9億5100万ドル(約951億円)をフィリピンやスリランカなどに送金するよう不正な要求がなされたのだ。

同中銀の正式な手続きでの送金要求であったために、連邦準備銀行側は疑うことなく送金を実施。結局、途中でそれが不正行為であることが判明したために取引は中止されたが、その時点ですでに8100万ドル(約81億円)が送金され、フィリピンなどで引き出されてしまっていた。

現在も犯人が判明していないこの一件は、「史上最高額のサイバー犯罪」と言われている。

【PHOTO】gettyimages

このようなサイバー事件は、日本にとっても決して対岸の火事ではない。2016年5月には全国のコンビニATMから18億円が引き出される事件が起きているが、南アフリカの銀行から流出した顧客の口座データを使って行われていた。これもサイバー攻撃によって南ア銀行の口座情報が盗まれたと指摘されている。

今、大規模なサイバー犯罪行為が世界で横行している。サイバー犯罪の大きな特徴のひとつは「国境がない」ことが挙げられるが、抑止・検挙のためには、国境を超えた調査、捜査が必要となる。世界規模のサイバー犯罪と日々戦っている組織が、国際刑事警察機構(ICPO=インターポール)だ。

インターポールは、2015年4月に、サイバー犯罪対策に特化した組織「IGCI」をシンガポールに開設した。もともとインターポールは国境を超えた犯罪の捜査や捜査協力を行ってきたが、国境を超えたサイバー犯罪が脅威を増す中で、これを取り締まる超国家的組織が必要となったからだ。

そのIGCIの初代総局長が日本人であることはあまり知られていない。

 

IGCIの初代総局長・中谷昇氏は、インターポールのサイバー部門をゼロから作り上げたIGCI設立の立役者である。今回、筆者は知人であるインターポール職員を介してシンガポールのIGCIを訪問することを許された。

そして中谷に、総局長に就任した経緯から、国際組織のトップの苦悩、世界のサイバー犯罪事情やインターポールが直面する限界などについて、話を聞くことができた。

きっかけは、本部へのサイバー攻撃

中谷は、1993年に警察庁に入庁。少年課などを経て、2004年に警察庁にサイバー課ができてからは主にサイバー問題を中心に扱うようになる。例えば、日本におけるインターネット上の違法・有害情報を通報できる「インターネット・ホットラインセンター」の立ち上げに尽力し、国際的なチャイルドポルノのデータベース作成にも、日本を代表して国際会議に赴いている。

そして中谷は、シンガポールでIGCIの立ち上げに従事するまで、警察庁からフランス南西部リヨンに本部を置くインターポールに2度にわたって出向した。そこからは、どのようにしてサイバー部門のトップに辿り着いたのだろうか。

中谷初代総局長(筆者撮影)

きっかけは、2008年に遡る。1度目の出向時、仏・リヨンのインターポール本部で経済ハイテク課長として勤務している際に、中谷は思いがけない事件に遭遇する。

当時、インターポール自体が大規模なサイバー攻撃の標的になる事件が発生したのだ。組織そのものがサイバー攻撃を受けるのは、史上初のことである。これによって、インターポールのウェブサイトが3日間にわたってダウンするなどの大きな被害が出た。

IT部門からこの攻撃の報告を聞いた中谷は、その犯人についての情報を得、そして驚愕した。

「フランス警察を介して、オランダの警察が犯人を捕まえたのですが、なんと17歳の少年だったのです。さらに別の共犯はギリシャに逃げていた。その少年は、自分が作ったDDos(サーバーなどに対して意図的に過剰なアクセスを行なって負荷をかけるサイバー攻撃)のツールを地下ネットワークで売ろうとしており、実績作りのためにインターポールを攻撃してみたら、思いがけず成功してしまったと語ったのです」

少年が気まぐれで行ったサイバー攻撃で、世界的な刑事組織のインターポールが大ダメージを受ける――。笑えない話である。そんな状況に危機感をもった中谷は、サイバー攻撃に対するインターポールの脆弱さについて調査し、報告書をまとめ、当時のロナルド・ノーブル事務総長に提出した。

するとその行動力が評価され、IT部門の局長に抜擢されたのだ(これは、外国の組織で評価を得るには、自ら組織の改善などを提案していく積極性が不可欠であることを教えてくれる)。