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51歳で独立・起業、「コーヒーで世界を変える男」川島良彰が目指すもの

第16回ゲスト:川島良彰さん(後編)
島地 勝彦 プロフィール

コーヒーのロマネ・コンティ

島地 なるほど。ホセはエルサルバドルから始まり、ハワイやスマトラなど、気候も人種も宗教も文化も、言葉も違う国で農園開発をしてきた経験がある。コーヒー屋の息子だから消費国の事情にもある程度は通じている。確かにそれは両方の視点でものごとを見られるホセにしかできないことですね。そうやって「コーヒーハンター」が誕生したわけですか。

日野 さっき、島地さんから最高級品のコーヒーを飲ませて……もらえなかったんですが、ぼくらが普段飲んでいるものとどこがどう違うんでしょうか。

島地 まだ根に持ってるのか。わかったわかった。今度飲ませてやるよ。

川島 飲んでいただくのが一番ですが、まず、そもそも豆が違います。「グラン クリュ カフェ」の豆を生産しているのは世界中で9つの農園だけで、しかも土壌、気温、雨量、日照、風向きなど、栽培環境が最もすぐれた特級畑のみでつくられたものです。

その特級畑のなかでさらに選別した樹々から、熟練の摘み手が完熟の状態で摘み取ったものだけを使うから、どうしても値段は高くなってしまいます。

島地 ワインと同じですね。たとえるなら「コーヒーのロマネ・コンティ」でしょう。

川島 おっしゃる通りです。パッケージも他のコーヒー豆とは違います。

島地 シャンパンボトルに豆を詰めたパッケージで、コルクを外すとポンッといい音がして、かぐわしい香りがぱぁっと広がる。あれは秀逸なアイデアですね。

川島 コーヒー豆は焙煎すると炭酸ガスを発生するので、ほとんどの場合はガスが抜けるようにパッケージングされます。でもガスと一緒に香りも抜けてしまうんですね。それを閉じ込めるために最適だったのがシャンパンのボトルでした。

嗜好品としてコーヒーを楽しむ文化

日野 想像するだけでおいしいのはわかりますが、値段はうんと高くなりますよね。会社をつくり、まず売りやすい商品から始めようとは思わなかったのですか?

川島 私が目指しているのは、コーヒーをワインやシャンパンなどの高級な嗜好品と同じように楽しむ文化をつくることです。そのために、品質のピラミッドの頂点に位置する「グラン クリュ カフェ」で、本当のコーヒーのおいしさと奥深さを知ってほしかったんです。まずは頂点を決めて、そこから裾野を広げていくほうが効果的だと考えたわけです。

島地 サロン・ド・シマジもコーヒー文化の啓蒙に一役かっているわけですね。確かにワインも最高のレベルを知れば、その先は場の雰囲気や顔ぶれ、予算に合わせて選ぶ楽しみが生まれます。安いテーブルワインだって、おいしいものはたくさんある。

川島 そこなんですよ。日本人の生活にコーヒーは浸透していますが、文化のほんの一面しか知られていないと思うんです。それなら私が、と。とはいえ、会社を興したのがリーマンショックのタイミングと重なってしまい、いくら品質に自信があっても、最初はなかなか理解してもらえず、いつ倒産してもおかしくない状況でしたけど。

島地 転機になったのがJALからのオファーなんですよね。

川島 そうです。「世界一おいしいコーヒーをお出しする航空会社にしたいので、ぜひ力を貸してほしい」「ファーストクラスのお客様に『グラン クリュ カフェ』を提供したい」と、ある取締役の方から打診がありました。

島地 でも飛行機の中と地上では環境が違うわけでしょう。コーヒーの淹れ方も変わってくるんじゃないでしょうか。

川島 私が心配したのもそこでした。生まれたばかりの小さな会社がJALと取引きできるなんて、まさに夢のような話ですが、だからこそ妥協は一切したくありませんでした。

そこで、私が納得できるレベルのコーヒーを提供できるまで、JALと一緒に実験と検証、トレーニングを行うこと。どんなにやっても納得できなければ、お断りするかもしれないこと。だめもとでそんな条件を提示したら、その取締役は「全部受け入れます」といってくれました。