ゲーム界のカリスマが仕掛ける「格闘技革命」その打算と勝算

新日本プロレスに次ぐ成功は起こるか?

カードゲーム会社「ブシロード」が、突然キックボクシング界への参入を発表した。格闘技界を騒然とさせたこの出来事、ブシロード・木谷社長の狙いは、勝算はどこにあるのか。そもそも、ファンは歓迎すべきことなのか――。

キックボクシングのリングアナウンサーを長く務め、最近ではキックボクシングの祖・野口修の評伝を執筆している細田マサシ氏が、解説する。

なぜいま、キックボクシングに参入するのか

「降ってわいたような話」

とはよくいうが、この一件はまさに、格闘技界、とりわけ、今年創立50周年を迎えるキックボクシング業界にとって、降ってわいたような椿事であるといっていい。

9月14日、渋谷TSUTAYA・O―EASTで、キックボクシングイベント「KNOCKOUT」の発足記者会見及び、発足記念公式戦1試合が行われた。

この新組織を立ち上げたのは、トレーディングカードゲームの大手メーカーの「ブシロード」。今なら「新日本プロレスの親会社」といったほうが、ピンとくる人は多いかもしれない。

旗揚げと併せてイベントの運営会社「キックスロード」の設立も発表、トレカゲーム「キングオブプロレス」の元プロデューサーの花澤勇佑氏が代表に、現場で指揮を執る団体の顔ともいうべきプロデューサーには、元新日本キックボクシング協会フェザー級王者の小野寺力氏が就任した。

「KNOCK OUT」ホームページより

カードゲーム会社が、プロレス団体に続きキックボクシングへの参入を決めたのはなぜか。ブシロード代表取締役社長の木谷高明氏は、その理由を、主に次のように述べている。

「4年半前、新日本プロレスがブシロードのグループ会社になり、プロレスの他に面白いスポーツエンターテインメントはないかと思っていたところで小野寺氏と出会った。プロレスならWWEがあり、総合格闘技ならUFCという上位概念がある。今のキックボクシングにはそれがない。上位概念を作れば、とんでもないビジネスになる可能性がある」

正鵠を射た主張である。プロ野球におけるメジャーリーグの存在は、まさにその端的な例といえよう。 

しかし、本来、日本のキックボクシングにも上位概念がないわけでもない。ムエタイである。タイの国技ムエタイの魅力に憑かれた、ボクシングプロモーターの野口修が、その日本版として1966年に誕生させたことが契機となっている。「キックボクシング」という名称も、実は野口修の命名によるものだ。

キックボクシング通史~沢村からK-1まで

日本のキックボクシングの歴史を、簡単に辿ってみたい。
 
1968年にTBS月曜夜7時からレギュラー放送の始まったキックボクシングは、不世出の大スター、沢村忠の人気もあって、日本全国、会場は超満員。さらに、沢村をモデルにしたアニメ『キックの鬼』が人気を博したかと思えば、73年には、初の三冠王に輝いた巨人軍の王貞治を抑え、沢村忠が日本プロスポーツ大賞を獲得する。
 
そんな、社会現象ともいえる空前の大ブームを巻き起こしたキックボクシングだったが、77年に沢村が引退すると人気は低迷。さらに、80年代にテレビ中継がなくなると、統轄する団体は分裂を重ね、それにともない、キックボクシングはマイナースポーツへと転落してしまう。

 

90年代に入ると、人気選手の相次ぐ出現によって一時的に盛り返したキックボクシングだが、団体の分裂は相変わらず続き、往年の盛況さとは程遠い状況が現在まで続いてきた。2016年現在、「協会」「連盟」と名の付く団体だけで七つを数え、そのいずれにも属さない独立系イベントまで含むと十三にものぼる。

離合集散を繰り返すキックボクシングを尻目に、爆発的な人気を獲得したのが、大阪に本部を構える空手団体、正道会館が主催する93年スタートの「K―1」である。大会場での興行や、テレビの高視聴率に支えられ日本中に旋風を巻き起こしたK―1だが、「リングを使って」「トランクスを履き」「ボクシンググローブを手にはめ」と外見だけを見れば、その姿はキックボクシングそのものと言えた。

そこでK―1は、ルール面において隔たりを設ける。キックボクシングがヒジ打ちや組んでのひざ蹴りを認めるなど、ムエタイをベースに施行されているのに対し、K―1はそれらを反則とすることで、スピーディーな展開を惹起させた。そこに新しさを訴えたのだ。

一時は隆盛を極めたK-1

選手にとってルールの違いは、決して些少な問題ではない。

それでも多くのキックボクサーがK―1に流れたのは、テレビ中継や会場に集う芸能人など、華やかな世界に憧れたからにほかならない。それはムエタイがキックボクシングの上位概念ではなくなったことを意味した。

K-1は2000年代後半になると一時衰退したが、現在、正道会館に替わる新しいオーナー企業の傘下に入った新生K―1は、従来のブランド力に加え、新たなスター選手を育て上げ、以前とは異なるファン層を開拓。チケットが即日完売することも珍しくないなど、順調な進捗を見せている。一方のキックボクシングは、有力選手は続々と輩出しているものの、他団体化によってもたらされた観客動員の苦戦など、永続的な成功は見込めず、岐路に立たされている。