アメリカ 大統領選
イギリス人が頭を抱える「米大統領選」の不可解と、拭えぬ疑念
いまだ鮮明な「まさか」の記憶

米国と歴史的なつながりが強く、「特別な関係にある」と自負する英国は、4年に一度の米大統領選挙に並々ならぬ関心を持つ。

富豪ビジネスマンで著名リアリティ番組の司会者でもあったドナルド・トランプが大統領候補として名を上げた今回は、なおさらだ。トランプが大統領に足る資質を持っていると見る人は、英国にはほとんどいない。なぜこれほど米国で人気があるのか不思議でしょうがない、と言ったところだ。

 

これほどの問題発言が多いトランプを支持するとは、「米国民の知的レベルはこれほど低いのか」という感想を筆者は複数の英国人から聞いてきた。実際に米国に住んでいないため、ヒラリー・クリントン民主党候補がなぜそれほど好かれていないのかもほとんど実感としては伝わっていない。

支持率が下がらないトランプがもしかしたら勝ってしまうかも? という怖いもの見たさの国民が多く、英国は米国の"もう1つの州"かと思えるほどの活発な報道が続いている。

常軌を逸する「役者」トランプ

英国では二重国籍を持つことが可能なので、米国籍と英国籍を持つ人もいる。最も著名なのは元ロンドン市長で現在は外務大臣のボリス・ジョンソンだろう。米国は英国民にとって、非常に近い存在だ。

恒例の米大統領選報道の中でも、今回の大統領選への英国民の関心の高さはダントツ。その理由は度肝を抜くような発言を乱発するトランプの存在だ。

不動産王トランプは若い男女がビジネスのスキルを競うリアリティ番組「アパレンティス(見習い)」の司会者としてもよく知られている。英国でもBBCが別のビジネスマンを起用して同名の番組を放送している。

しかし、現在までのトランプの一連の発言に、多くの英国民は眉をひそめた。いや、英国民のみならず、誰だって驚かざるを得ない。人種差別や女性や少数民族への偏見に満ちた暴言が続いたからだ。

2012年にはオバマ大統領はアフリカ生まれだから大統領になる資格がない(注:米国では大統領になるのは米国生まれである必要がある)、と発言(今年9月、米国生まれを認めた)。

15年の共和党からの出馬表明時にはメキシコ人を「ドラッグを持ち込む、犯罪を持ち込む」「レイプ犯」と呼んだ。また、米国で起きたイスラム系市民による銃撃事件を受けて、イスラム教徒の米国入国を完全に禁止するよう、呼びかけた。

人種差別的発言・行動を禁じる法律がある英国では驚愕の発言の数々だ。

ヘイト・スピーチの数々に加えて、北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」とし、西欧諸国では独裁者として受け止められるロシアのプーチン大統領を「オバマ米大統領より良い指導者だ」と誉めるなど、これまでの防衛体制、外交関係を覆すような発言を繰り返してきた。

常識的には考えられないほどの発言の数々だが、「もし」当選したら、彼が核兵器のスイッチを押す任務を担当する。英国の政治家や外交関係者にとっても非常に恐ろしい事態となった。

〔PHOTO〕gettyimages

ひょっとしたら、ひょっとする?

英国民がまず知りたがったのは、「なぜ米国民はトランプを支持するのか」だった。

筆者の英国の友人たちはホワイトカラーに就いている人が多いが、テレビやラジオの番組で街頭インタビューされる人の話を聞いても、「私が米国人だったらトランプに投票する」という人は皆無だった。

トランプ支持の理由を探るため、BBCをはじめとした各テレビ局はトランプの支持率が高い州や共和党の集会が行われた複数の都市にレポーターを送り、米市民にマイクを向けた。

画面に登場したトランプ支持者はそのほとんどが白人の男女。「工場が閉鎖された」「職を失った」──。低所得者か休職中の人物が多かった。「トランプなら、仕事を作ってくれる」と希望を託していた。

実際に米国民の声を聞いてさえも、多くの英国民にはトランプの支持率がなぜこれほど高いのか、納得するのが困難だ。なぜクリントンが圧倒的なリードをこれまで得られていないのかも同様に──。