医療・健康・食

認知症予防には恋が効く!? 高齢者の「愛と性」をマジメに考える

生殖機能は失われても…

恋をして認知症を予防?

後期高齢者(75歳以上の高齢者)のお二人が恋に落ちた、と聞いたとき、みなさんはどんなツーショットを連想されるでしょうか? 私は、八千草薫さんと三國連太郎さんのお姿を思い浮かべます。数年前まで、健康食品のCMで流れていたご夫婦姿です。美しく、ほほえましいカップルでした。

なにしろ高齢だから、もっと暗い風景を思い浮かべてしまう、という方もいらっしゃるかもしれません。現実はそんなに甘くない……と。

時折耳にする高齢者同士の恋愛は、しばしば私たちの想像を超えています。意外にも、10代の初恋のように瑞々しく、純粋な雰囲気を感じることもあります。

その一例として、軽度認知症を合併した脳梗塞後遺症の男性(75歳)とパーキンソン病の女性(77歳)の淡い恋の物語を、このたび刊行した拙著『40歳からの「認知症予防」入門』(講談社ブルーバックス)でご紹介しました。

「えっ、恋と認知症!? 何か関係があるの?」

と疑問をもたれる人も多いことでしょう。実は、恋をすることでさまざまな脳内ホルモンや神経伝達物質が増加し、認知症を確実に遠ざける効果がありそうなのです。もちろん、いまだ仮説の域を出ない考え方ではあるのですが。

やがてこのジャンルの研究が進めば、「恋をして認知症を予防しよう」などと呼びかける時代が来るかもしれません。

後期高齢者1500万人時代

後期高齢者は現在、1500万人を超えています。その方々の中には、愛に飢え、孤独に耐え、厳しい日々を送る人も少なくありません。

そのみなさんが生きがいをもち、心安らかに生きていけるなら、心身の健康は改善し、認知症からも遠ざかり、豊かな日々を過ごせるに違いありません。生きがいをもちつづけるという観点から、高齢者の愛と性の尊重が重要な問題となっています。

後期高齢者、あるいは超高齢者(90歳以上)の愛と性の問題は今、どのような実態にあるのでしょうか。高齢者が引き起こすトラブルが時折クローズアップされる以外は、実はほとんど明らかになっていません。

 

高齢期の愛とは? 生殖機能が衰えた後に、なぜ性欲が残るのか? 高齢期における男女の友情とは? 「男と女」は、超高齢期にあっても男と女でいつづけるのか?

後期高齢者の「愛の心理学」「性の生理学」は未開拓で、空白の多いことを実感します。

性欲は消えず、ただ生殖能力が立ち去るのみ

後期高齢期の性に関しては、生殖機能と性欲意識の乖離という問題が浮かび上がっています。生殖機能とは、子供をつくる機能です。

男性の場合には精子の産生と射精にいたるまでの能力、女性の場合には排卵・受精・着床・妊娠出産にいたるまでの一連の能力がこれにあたります。生殖機能と性的欲求は思春期に、ほぼ同時に始まりますが、生殖機能のほうは、初老期・更年期に性ホルモンが衰退するのとともに失われていきます。

しかし、たとえ生殖機能は失われても、性的欲求は持続します。高齢者においても、性欲は存続しているのです。日本性科学会が行った「中高年セクシュアリティ調査」(2012年)をみても、男性では「(性的)欲求がほとんどなくなった」と回答した60代は16%、70代では26%でした。1990年に行われた同学会の別の調査でも、80代男性の50%近くに性的欲求が認められています。

性的欲求や性行動を起こすには、性ホルモンと神経伝達物質などが必要です。神経伝達物質は、老いてもあまり衰えずに活動を続けます。かつては“性中枢”とよばれた間脳などの性行動に関連する脳領域が健在で、神経伝達物質と少量の性ホルモンがあれば、性的欲求は維持されます。私たち人間はおそらく、死ぬまで性欲をもちつづける生き物です。

認知症を発症すると、性的欲望を抑える「扁桃体」という脳機構が壊れることがあり、病的な性欲亢進が起こることもあります。ケアにあたる方々は、こうした実情をリアルに見つめながら関わることが必要です。

恋、永遠にときめいて

私は、認知症を患う高齢者の性の問題を初めての著作(『脳からみた認知症』講談社ブルーバックス、2012年刊)で取り上げ、性的問題行動・トラブルを、個人の品性ではなく、病気の症状としてとらえるよう提案しました。

今回の『40歳からの「認知症予防」入門』では、「『高齢期の愛と性』をどう考えるか」という一章をもうけ、高齢者の健全な心身を保つための視点から、愛と性の問題を考察しました。

高齢者が愛や性に自然に、そして率直に向き合う、それが生きがいのある日々に結びつき、認知症を遠ざける可能性について指摘しています。正面からは語りづらいテーマに、多くのみなさんの関心が向くきっかけになれば幸いです。

読書人「本」2016年11月号より