環境・エネルギー
「美しい海を、守って」安倍昭恵夫人・祈りのスピーチ

「私は悲しくなるのです」

「まずはこの写真をご覧ください。海辺に建てられる、15メートルもの巨大な壁。確かに私たちは、東日本大震災で津波のとてつもない破壊力を目の当たりにしました。しかしながら、それを防ぐためという名目で、このように巨大な壁が建設され、美しい海が破壊されるのかと思うと、私は悲しくなるのです」

そう話しながら、安倍昭恵・首相夫人が一枚の写真を見せると、会場に集まった100人近い聴衆からは、驚きとも悲鳴ともとれる声が上がった。

8月22日、ハワイ・ホノルルで開かれた「日米国際海洋環境シンポジウム」。海洋汚染や過剰漁獲など、海に関する諸問題を日米双方で確認し、その解決方法について協議するこの会議で、日本の代表を務めたのが、安倍昭恵・首相夫人だ。

会議の主催者である、海洋自然保護を目的とするNPO団体「セイラーズフォーザシー」日本支局と親交があったことから、故ダニエル・イノウエ上院議員夫人のアイリーン・ヒラノ・イノウエ氏とともに、今会議の代表を務めることになったという。

この前日、パールハーバーを訪問し、犠牲者に祈りを捧げたことが日本でも話題になったが、ハワイを訪れたのは、この会議に出席するためでもあったのだ。

他の登壇者らと写真撮影に応じる昭恵夫人

海洋学の専門家、ハワイの学生、メディア関係者を前に、英語で20分近くの基調講演を行った昭恵夫人。日本の海洋環境や海洋保護の取り組みについても触れる中で、話の中心に置いたのは、気仙沼の防潮堤に関する問題だ。

東日本大震災後、「津波からの被害を最小限にする」ことを名目に、気仙沼をはじめとする各所で、巨大防潮堤を建設する計画が立ち上がったが、昭恵夫人は、被災地を訪問する中でこの計画を知り、地元民の話を聞くうちに、疑問を持つようになった。以来、一貫して計画をもう一度白立ち止まって考えるように訴えてきた。今回は「海を守る活動」のひとつとして、自身のこれまでの取り組みについて語ったのだ。

ともに海を守りましょう

「計画では、一兆円をかけて、300㎞にもわたる防潮堤が建設されることになっていました。確かに津波による被害は甚大でした。しかし、特に議論をすることもなく、これほど巨大な、しかもせいぜい50年程度しか持たないようなコンクリートの壁を作る必要があるのか、私は疑問に思いました。

なぜなら、この防潮堤が建設されることで、美しい海が間違いなく破壊されてしまうからです。また、美しい景観も私たちの視界から閉ざされてしまうことにもなります。

私たちが疑問の声を上げ続けた結果、計画は見直しされることになりました。しかし、気仙沼以外の場所では、まだ防潮堤の建設計画が進んでいるところがあります。

美しい海を守るためにも、私たちの体と心を、より海に近づけて物事を考える必要があるのではないでしょうか。私たちは、海との間に『壁』をつくってはいけないのです。ここに皆さんが集まったのは、そうした隔たりをつくらずに、海を守るという決意と、次世代に託すべき知恵を共有するためなのです。

日本とハワイは、ひとつの海でつながっています。ともに手を携えて、美しい海を守りましょう」

次は沖縄で開催?

約6時間にわたって行われたこのシンポジウム。昭恵夫人のスピーチの後には、海洋学者による海洋資源に関する研究報告や、学生NPOによるパネルディスカッションなどが行われた。夫人は途中退席することもなく、すべてのセッション終了後には参加者やパネラーと交流。「この続きは、ぜひ東京の『UZU』(東京にある、昭恵夫人が経営する居酒屋)で話し合いましょう」と気さくに声をかけていた姿が印象的だった。

「日本は海洋国家でありながら、海を守るという気持ちが強くないのではないか――。そんな問題意識を持っています。世界的に『海を守らなければならない』という気運を高めることで、日本の人々にも、その大切さに気づいてほしいと思っています」と現代ビジネスの取材に語った昭恵夫人。シンポジウムの終盤には、

「東北地方の防潮堤の問題だけでなく、日本ではほかにも海の自然に関する問題を抱えています。たとえば沖縄には、新たな基地を建設するかどうかで、自然保護の観点からも大変な議論が起こっています。政治的にも非常に繊細な問題なのですが、それについてもう一度考えてみるためにも、こうした会議を沖縄で開催するというのも、ひとつの案かもしれません」

と話していた。実際に沖縄で開催されることになれば、また大きな注目を集めることになるのは間違いないだろう。