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アルコ&ピース「伝説のラジオ番組」が小説の世界に現われた!

他人を通じて成長する青春ストーリー

実在する伝説のラジオ番組「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を、フィクションの世界に持ち込んだ小説『明るい夜に出かけて』。ラジオを中心に据えた作品を書きたいという思いがあったと話す著者の佐藤多佳子さんに、本書の読みどころを聞いた。

賭けのような気持ちで書いた

―主人公の富山は、ある事件を契機に人とのコミュニケーションにトラブルを抱え、大学を休学して一人暮らしを始める。そんな彼の、最大の楽しみが深夜ラジオ。同じラジオ番組が好きなリスナーの少女、バイト先の個性的な先輩、因縁のある高校の同級生、彼らとの関わりを通して富山は次第に変わっていきます。

デビュー前から、この構想の構想がありました。日常に接点のない少年少女が夜の町で出会い、交流することで互いに変化する物語です。

数年前から具体的な作品化に着手しましたが、当初は、ラジオ番組は、登場人物が出会うきっかけとしてのみ、考えていました。もともとラジオを聴くのが好きでしたが、仕事としてさらに色々聴くうちに、ラジオ愛が深まり、中心に据えて作品を書きたくなりました。

―作中には実在のラジオ番組が登場します。特に、富山たちが聴き惚れている「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」への愛が溢れています。

終了してしまったのが惜しまれるほど、強烈な個性とエネルギーを持った番組だったんですよ。番組宛に送られてくるリスナーからのネタのメールによって、分刻みで変化していくライブ感の強い生放送でした。

最初は、架空の番組を設定して物語を書こうとしていたのですが、アルコ&ピースのオールナイトニッポンより面白いものを自分が考え着くとは思えず、いっそのこと番組自体をお借りしたら、と思いました。

個性の強い、カリスマ的な人気のある番組を扱い、それに負けないフィクションを構築するのは、本当にむずかしいことで、できるかどうか賭けのような気持ちで挑戦しました。

―ラジオにメールを送る人は「職人」と呼ばれ、番組中に読み上げられる回数が多いほどリスナーから崇められます。人気職人であることが誇りだった富山ですが、あるとき「炎上」してしまったことで、現実でもラジオでも居場所を失います。

今はラジオもインターネットと連動する時代。そのことが番組を活性化させているのは確かですが、富山のように本名が晒されるなど、トラブルが起きる危険もはらんでいます。他者からの悪意を真っ向から浴びて、立ち直るのはなかなか難しいでしょう。

だからといって、今の若者がインターネットやSNSにまったく関わらずに生きていくことは不可能に近い。自分の身を守るためには、情報の取捨選択をしていくしかないのだと思います。

重要なのは、どこまで踏み込んでいいかのラインを見極めること。今はまだ、そのバランスや他人との距離感を、誰もが計りかねている。上手に使えば実りのあるツールですし、世界を広げる一歩にもなりうると思うのですが。

 

自分を変える身近で奇跡的な出会い

―他人との距離感に対する戸惑いは、富山の接触恐怖症にも象徴的に表れていますね。

コミュニケーションは一方通行では成立しないのに、富山は自分に踏み込んでこようとする人を排除しがち。その彼が排除しきれないほど圧倒的な個性をもっていたのが、彼を上回るセンスを放った職人・佐古田であり、コミュニケーションの達人のようなバイト先の先輩・鹿沢でした。

二人は富山の日常で絶対に避けることができない存在ではありません。あくまで、ラジオやバイトを介して繋がっただけの関係。切ろうと思えばいつでも切れる相手です。でも、そういう存在がときに、家族や友達以上に自分を救ってくれることはあるんじゃないでしょうか。

佐古田たちとの出会いで富山が少しずつ変わっていったように、偶発的な出会いが人生に大きな影響を及ぼすこともきっとある。そんな出会いは案外身近に転がっているかもしれないという願いを込めて、今回は物語として描いてみました。