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押切もえ「自分を貫く強さはこの本から教わった」
わが人生最高の10冊

この本で自分の弱点がわかった

ハッとさせられる言葉に多く出会った本を、ここでは選びました。

唯川恵さんは、学生時代から愛読していた大好きな作家さん。中でも『肩ごしの恋人』は折に触れて読み返す一冊です。

クールな「萌」と、自由奔放な「るり子」という、性格が正反対の親友同士の恋と友情の物語。自他ともに認める「同性から嫌われる」タイプのるり子を、私も最初は苦手だったのですが、どこかに羨む気持ちがあることに気づいたんです。

そしてラスト、〈不幸になることを考えるのは現実で、幸せになることを考えるのは幻想なの?〉というるり子の言葉に衝撃を受けました。

ああ、そうだなと。るり子のように、幸せになろうとしない限り、幸せにはなれないのだと。傲慢になってはダメだけれど、時には嫌われてもいいから、自分のやりたいことを貫く強さを持とうと、教えられました。

唯川さんには実際にお会いする機会があったんですが、その時、山本周五郎賞の候補になった私の小説に対して、温かい言葉を下さった上で、少し優等生感が見えたと評されました。

この言葉を聞いて、目の前の靄がパッと晴れたような気がしたんですね。自分でもまさにそれが弱点だと感じていたから。現実でも小説でも、良い子でなくていい、心のままに突き進めと教えて下さった唯川さんに感謝しています。

2位のミランダ・ジュライの『いちばんここに似合う人』には衝撃を受けました。文章も内容も、私の読書経験の中で唯一無二。何を書こうとしているの? どんな世界観なの? と、最初の数行は頭をひねってしまうような突き抜けた短編ばかりが並んでいる。と同時に、人の欲や孤独、淋しさ、温かさといった普遍的な感情が、物語には詰まっているのです。

私は「水泳チーム」が好きですね。川も海もプールもない村で、水泳コーチになる女性の物語。

〈わたしはきっと、人類史上最高に悲しい水泳コーチだ〉というラストの一文が胸に沁みます。

言葉への思いが強まっていく

3位に挙げた角田光代さんも大好きな作家さん。『対岸の彼女』は、女同士の友情の難しさを描いた作品です。

どんなに仲が良くても、女性は結婚や出産、仕事など、環境の変化によって、友達と疎遠になってしまうことがある。それを淋しいと感じたこともありましたが、この小説を読んで、違う生き方を選んだからこそ認めあい、わかちあえる感情があるのだと、気付きました。

私は〈ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事〉という言葉にいつも支えられています。友達でも、そして恋人でも、一緒にいない時間も楽しく過ごせる関係でいたいと思っています。

もう一つご紹介する角田さんの『空の拳』は、ガラッと変わって男の世界。ボクシングを描いたスポーツ小説です。

厳しい勝負の世界ですから、ボクサーは「才能」と向き合わざるを得ません。才能溢れる人を目の当たりにしたときに、自分の足りなさを痛感する辛さ―。これは私自身も悩んできたテーマであり、興味深く読みました。

〈逃げ方を考える〉というタイガー立花の言葉には考えさせられましたね。ただ真正面からぶつかるだけではなく、選択肢をたくさん持っていることの強さ、賢さ、自由さ。ポジティブな「逃げ」もあるのだと、そういう戦い方もあるのだと、勇気をもらいました。

スポーツは大好きで、今年の夏はオリンピックに夢中でしたが、毎年、夏に読み返したくなるのが『父と暮せば』です。

愛する人たちを原爆で失った美津江と、父親の物語。戦争や原爆が一つの家庭をどう変えたのかを、井上ひさしさんは、日常生活やユーモアを通して教えてくれます。だからより身近に、切実に感じられるのだと思う。エンタテインメントの力を実感します。娘の立場としては、“父”の愛に心打たれもしました。

昔から読書は好きで、純粋に読むことが楽しいのですが、自分が小説を書くようになってからは、書き手という意識で読む面も、少し出てきたように感じています。この展開は凄いとか、この文章は私には書けないとか思うことはある。

とりわけ言葉への思いは強くなっていて、辞書編集部を舞台にした三浦しをんさんの『舟を編む』には夢中になりました。言葉への敬意と発見に満ちた一冊であり、主人公の狂気と紙一重の情熱にも打たれます。言葉は深いからやりがいがある。改めてそう思っています。

(構成/砂田明子)

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