社会保障・雇用・労働

働いたら年金が減るって…制度上必ず起きる「働き損」という落とし穴

長い老後を生き抜くために

「働いたら年金減らしますね」

働くことの意味には、生きがいや誇りもあるだろうが、第一義はやはり収入だ。ところが、せっかく収入を得るため働いたにもかかわらず、「損をしてしまった」という声が続々と上がっている。

埼玉県在住の高橋悟さん(62歳・仮名)は、22歳から営業畑で働いてきた事務機器メーカーを定年退職後、再雇用された。

「退職前の月収は40万円で、再雇用後は24万円。給料は4割カットですが、このご時世、定年してもまだ仕事があるのはありがたいと、素直によろこんでいました。

けれども、いよいよ厚生年金の報酬比例分がもらえるというので、年金事務所に行って話を聞いたら、ほんとうにガッカリさせられたんです。38年間、掛け金を払ってきた厚生年金が、私がまだ働いているからと減額された。

月額で8万円ほどになるはずだったものが、3万4400円もカットされて、しかもそれを取り戻す方法はないって言うんですよ。こんな理不尽な話がありますか」

 

どういうことなのか。社会保険労務士の岩田健一氏は、こう説明する。

「これには二つの制度による減額が考えられます。

まず一つ目が、在職老齢年金の制度によるもの。

在職老齢年金とは、厚生年金の受給を開始した方に一定以上の収入があったとき、年金の減額が行われるものです」

非常に複雑な制度だが、まず基準になるのは、「総報酬月額相当額」。これは「その月の収入+直近1年間に受け取った賞与の12分の1」で算出される。要するに、その月の給与と、この1年間にもらったボーナスを月あたりの金額にしたものの総計にあたる。

「在職老齢年金では、『年金の基本月額が28万円以下かどうか』、『総報酬月額相当額が47万円以下かどうか』の二つの条件で減額分の計算の仕方が変わります」(岩田氏)

冒頭の高橋さんの場合、年金は月額8万円で28万円以下。総報酬月額相当額は前年のボーナスはなし、現在の給与月24万円で47万円以下という条件に当てはまる。

この場合、年金の減額分は、(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2となるため、高橋さんは(24万円+8万円-28万円)÷2で、月2万円の減額となった。

働いて収入があるからというだけで、年額にして24万円も損をするハメになったのだ。

ただ高橋さんは年金が2万円ではなく「3万4000円減った」という。残りの減額はなぜ生じたのか。岩田氏は、ここにもワナがあると話す。

「この方の場合、60歳時点の給与に比べて、再雇用後の給与が6割まで減っています。60歳以上になって再雇用されたとき、給与が60歳時点の75%未満になると、雇用保険から『高年齢雇用継続基本給付金』というものがもらえます。これは、定年後の給与の15%を給付してくれるといううれしい制度で、月収24万円の方なら15%の3万6000円が給与にプラスされることになります」

一見、ありがたい制度だが、それがなぜ、年金の減額につながるのか。岩田氏が続ける。

「ところが、先の在職老齢年金の対象者がこの給付金をもらうと、厚生年金から毎月の給与(標準報酬月額)の6%がカットされることになっているのです。月収24万円とすると、1万4400円の減額になります。せっかく給付金をもらっても、年金は在職老齢年金と合わせて3万4400円引かれてしまいます」

少しでも老後の生活を楽にしたいと働いているのに、制度が足を引っ張ってくる。差し引きではたしかに月1600円の「微増」だが、「あなたが働いているので、年金を減らします」と年間41万円強もの厚生年金の減額を受けるというのは、釈然としない。

だが岩田氏は、「減額の幅は人によって、さまざまな場合がありますが、基本的に年金を受け取りながら働くと、年金は減額されてしまう」と指摘する。

60代を過ぎても80代、90代まで生きるのが当たり前になった現在、リタイア後の時期を一口に「老後」と言っても、その期間は20年、30年と続いていく。その長い老後を生き抜くため、働き続ける道を選ぶ人が増えているわけだが、制度上必ず起きる「働き損」が待っている。期待通りの「ゆとり」を手にすることは、想像以上に難しい。

一方、リタイア後の厳しい人生を見据え、現役最後の50代から、人生設計を見直そうとするサラリーマンも多い。だが、そこでも大きな壁が立ちはだかる。50代は、サラリーマン人生の中でも激動の時期にあたるからだ。