本と本屋がなくなる日そんなバカな!?
出版業界騒然黒船ついに襲来

2010年05月06日(木)
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  こうした危険性をはらんだまま電子書籍市場は日本でも拡大しようとしているが、では、本格的に普及するのはいつごろになるのだろうか。

 取材班が聞いたところ、多くの出版関係者は一様に、日本ではアメリカほど急速に広まることはないという意見だった。その理由の一つには、日本の本がアメリカなどに比べてもともと安いことが挙げられる。アメリカのハードカバーは25㌦(約2300円)程度が当たり前で、それが電子書籍では10㌦以下で読めることから一気に広がった。

 一方、日本の本は2000円以下のものが多く、さらに定価の安い新書や文庫も豊富だ。価格が電子書籍普及の動機になるとは考えにくい。また、現状では日本語のコンテンツは少なく、マンガを除けば、著作権が切れた古典などが中心になっている。

 逆に言えば、人気作家の新刊が電子書籍で、紙の本より安く読めるというような状況が生まれれば、アメリカのように一気に広がる可能性も否定できない。
  '92年から電子書籍事業を専門に行ってきた草分け的存在であるボイジャーの萩野正昭社長は、こう語る。

「日本の本はいまでもほとんど電子的に作ったものを紙に印刷しているわけですから、そのデータを転用すればコンテンツはすぐに増えるでしょう。流通コストもかからないし、返品を心配する必要もない。紙の本が売れない現状の出版社にとって、電子書籍は福音になるかもしれません」

紙の本は1割になる?!

 現在の出版業界は売り上げが下がり続け、ついに全体でも2兆円を切った。出版界全体で任天堂の一社の売り上げ('09年決算)と同じくらいである。さらに、返品率は実に40%に達している。つまり、取次を通して本屋に置かれた本のうち4割はまた出版社に戻ってきてしまうのである。

 もちろん、本屋の経営も厳しくなる一方だ。2000年に約2万2000店あった本屋は、2010年には30%近く減少して、1万5500店余り。電子書籍時代の到来を、本屋ではどう見ているのか。ジュンク堂書店専務取締役営業本部長の岡充孝氏に聞いた。

「浮き足立っている人もいるようですが、正直、電子化が本格化するのはまだ先の話だと考えています。いまは紙媒体のコンテンツをもっと掘り下げていく努力が大切じゃないですか。20年、30年先には電子書籍のシェアも上がってくるでしょうが、当面は電子書籍で目次を見たり試し読みをして、あらためて書店で本をお買い上げになるお客様が増えるように思います」

 右往左往する前に、もっとコンテンツを掘り下げるべきというのは、取材班にとっても身に沁みる指摘である。本の流通を担う取次店の意見も聞いてみよう。

「紙が発明されて2000年近く続いてきた文化がそう簡単に崩れるとは思っていません。現在、総務省・文科省・経産省が出版業界各社を集めて議論をしていますが、取次はそのメンバーから外れています。そのため、あまり情報も入ってきませんが、取次各社がそれぞれ対応を考えているはずです」(日本出版取次協会・林正則事務局長)

 業界は各々の立場で、必死に生き残りをかけて様々な取り組みをしている。たとえば、ジュンク堂書店では、電子書籍では絶対に味わえない、作家と読者の交流の場としてイベントを頻繁に開催する。

 他にも特徴のある品揃えや、地域に根ざした対面販売など、「この本屋に行くと何かある」「この本屋が勧める本は面白い」と読者にリアルな体験を提供した本屋は生き残っていくのだろう。

 一方、電子書籍の世界では、ツイッターなどを利用した口コミが、大きく売れ行きに影響する。ブログ書評のカリスマとして知られる小飼弾氏が言う。

「私は7年ほどで紙の本は1割くらいになると予測しています。電子書籍には著者のサインはもらえませんよね。そういう物理的な証(あかし)を残したい人はいます。また、オマケを付けた初版限定版のようなものは、紙の本でしか手に入らない。

 それ以外の本は電子書籍に置き換わり、ネットで自分が信用する人が面白いと言った本を買うようになる。いまでも私の勧めた本が半日で1000部売れることがあります」

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