本と本屋がなくなる日そんなバカな!?
出版業界騒然黒船ついに襲来

2010年05月06日(木)
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一冊も売れない恐怖

 アメリカでの取材により、日本の出版業界がいずれ直面するであろう課題が何か、ぼんやりと見えてきた。同時に、日本の出版業界には、電子書籍に対して浮き足だった議論が少なくないという気もした。

 たとえば、アマゾンやアップル、グーグルなどの企業と作家が、出版社を介さずに直接契約をして、電子書籍を出すという「出版社中抜き論」。出版社がもっとも脅威を感じている構図だ。現実は、アメリカでも、原稿を編集者を通さずに電子書籍化するケースは稀で、既刊だけを電子書籍化し、新刊を出す場合は既存の出版社から紙の本で出す(または同時に電子書籍版を出す)という作家が多かった。

 なんだか「電子書籍」や「巨大企業」の名前に脅えて、編集者が「自分たちに存在意義はない」と卑屈になっているみたいだ。もちろん、無意味に威張る必要はまったくないけれど……。

  取材班は次に、日本の作家たちが、電子書籍についてどんな感想を抱いているかを聞くことにした。たとえば、通常10%の印税も、電子書籍なら用紙代、印刷・物流コストがかからないので高くすることができる。アマゾンでもアップルでも自分たちの電子書店で販売した場合、売り上げの30%を取り、最大70%は作品を提供した側(作家や出版社)に支払うと言っている。

 もちろん、収入のためだけに作品を書くわけではないが、こうした条件を出されれば、心は動かないのか。 日本文藝家協会副理事長で知的所有権委員長を務める三田誠広氏が答える。

「私自身は紙の本に格別の思い入れを持っています。印税率について言えば、本には初版部数というものがあり、初版部数分の印税が著者に支払われると、それはたとえ本が売れ残っても、おカネを返すことはありません。これは一種の『契約金』だと考えられます。しかし電子書籍の場合、読者が注文すると課金される仕組みですから、初版部数という概念はありません。
 仮に印税率が70%だったとしても、一冊も売れなかったらゼロです。そんな状況で書き下ろし小説を出していくのはリスクが高すぎて、プロとしての仕事はできないのではないかと考えます」

 三田氏の話を聞いて、思ったことがある。読者が特定の本の存在を知るのに、宣伝は一つの重要なきっかけだ。当然ながら、これは出版社の費用で行われている。本が売れなければ初版部数分の印税を含む損失があるからだ。

 ところが、電子書籍の販売を牛耳ろうとする世界的巨大企業にとっては、仮に本が売れなくても金銭的リスクがない。宣伝なしでも本を出せば売れるというような有名作家さえいればよく、新人作家に宣伝費をかけて売り出そうという発想にはならないに違いない。

「村上春樹」の偽者が出る?

 こうした懸念が拭えないなか、今年3月、国内の出版社31社が集まって日本電子書籍出版社協会(電書協)が発足した。著者の権利確保や紙とデジタルの共存を目的とした組織だが、アマゾン、アップル、グーグルといった企業に対して、出版界全体で対応しようという狙いもある。

 もちろん、電書協では巨大企業を敵対視しているわけでも、電子書籍そのものを否定しているわけでもない。文化的側面から見ても、絶版になった本や、100年以上前の本を電子化して保存することは歓迎すべきことだし、国会図書館でも現在、蔵書のスキャンを行っている最中だ。

 もう一つのメリットは、これまで本を出すことができなかったような人が、自作を電子書籍として流通させられるようになったことだろう。

 ただ、それにより想像もしなかったような問題が起きる可能性だけは覚えておいたほうがいい。ツイッターでは、有名人の名前を騙(かた)る例は珍しくないが、電子書籍でも、同様のことが起こりうる。弁護士の村瀬拓男氏は、こう危惧する。

「どんなペンネームを使おうと作者の自由ですし、たとえば村上春樹という名前の登録商標はないので、誰でも名乗れます。これまでは、書き手の身元保証を出版社が担ってきました。出版社がニセの著者のインチキ本を一冊だけ作って逃げることはありえませんから。
 もちろん、勝手に著名作家の名前を名乗って作品を発表したら、形式的には詐欺罪が成立するでしょう。ただ、『自分は、あの「ノルウェイの森」を書いた村上春樹だとは一言も言っていない』と言い逃れれば、罪に問えるかどうか微妙です。
  同じように『1Q84』BOOK4を勝手に書き上げ、電子書籍として何十万部の売り上げを上げた場合でも、続編を勝手に創作するという行為が犯罪に当たるかどうかは難しい判断になります」

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