宇宙科学
「重力波」発見のビックニュースは何がそんなにスゴイんですか?
アインシュタインはやっぱり正しかった

文・安東正樹/東京大学大学院准教授

〔PHOTO〕gettyimages

アインシュタインは正しかった

日本時間の2016年2月12日未明、アメリカの重力波望遠鏡LIGOが、遠い宇宙からやってきた「重力波」の初観測に成功したと発表しました。

二つのブラックホールが合体する瞬間をとらえた、というのです。このニュースはその朝の新聞各紙で一面トップを飾り、テレビでは歴史的な出来事として報じられ、インターネットでは関連用語が検索語ランキングの上位を占めました。

世の中のほとんどの人がそれまで聞いたことすらなかったであろう「重力波」という単語、さらには「ブラックホール」や「一般相対性理論」というSFの世界のような言葉が、メディアをにぎわせたのです。

「重力波」は、物理学者アルベルト・アインシュタインが1915年に一般相対性理論を完成させた直後に、その帰着の一つとして存在を予想していた「時空のさざなみ」です。相対性理論では、時間と空間を一緒にして「時空」と表現します。この時空の小さな歪みが、波として宇宙を伝わっていく、というのです。

重力波が存在することは、天体の電波観測から間接的には証明されていました。しかし、研究者たちが五十年以上に及ぶ努力を積み重ねてきたにもかかわらず、その直接観測は実現されていませんでした。その初観測が、アインシュタインの予想から百年を経て、ついに成し遂げられたのです。

観測結果は、一般相対性理論の正しさを証明するものでした。また、ブラックホールの実在をより直接的に示す成果でもありました。

別の観点では、この初観測は、積み重ねられてきた精密計測の技術力を示すものでした。重力波がやってくると、空間が歪みます。しかしその歪みとは、たとえば太陽と地球の間の距離が、髪の毛の太さの百万分の一だけ伸び縮みする程度のきわめて微小な変動です。それが、極限的な技術が盛り込まれた大型のレーザー干渉計によって観測されたのです。

さらに、大きな「歴史的」意義もあります。人類が宇宙を観測する新しい手段を手に入れた、ということです。それは約四百年前、ガリレオ・ガリレイが手作りの望遠鏡を用いて初めて宇宙を観測した意義に匹敵すると言ってよいでしょう。

「宇宙の始まり」が観測できる

人類は宇宙を観測することによって、地球・太陽系や銀河の成り立ち、宇宙の始まりや進化などについての知見を得てきました。従来の主に電磁波(可視光・電波・X線など)を用いた天文学に、新たに重力波という手段が加わったいま、ブラックホールの謎を解き明かし、宇宙が始まった瞬間を直接観測したい、という究極の願いも夢ではなくなったのです。

重力波については初観測の第一報のあとにも、多くのメディアで解説され、人々の知的好奇心がくすぐられました。科学番組や科学雑誌では特集が組まれ、講演会も多く開催されました。この分野に長年携わってきた研究者の一人として私自身も、重力波初観測には大いに興奮し、広く興味をひいていることを喜んでいました。

ただその一方で、「重力波についてもっと知りたい」という人々の欲求に、十分に応えきれていないのではという懸念もありました。なにしろ重力波を専門家が説明した教科書や一般向け書籍はほとんど出版されていません。もし興味を持ってもらえても、重力波をより深く理解する機会はあまり提供されていなかったのです。

このたび、講談社ブルーバックスから刊行された『重力波とはなにか』では、重力波とはなにか、それを用いた新たな天文学とはどのようなものか、わかりやすく説明しました。一般向けの重力波の解説書は、初観測の発表後では本書が最初のはずです。

内容は、研究の過去から最前線、そして将来の見通しまで、幅広く濃いものになっています。歴史的な背景を知れば、重力波の直接観測という悲願が達成された意義をよりご理解いただけると思いますし、重力波天文学の今後の可能性を知れば、今回の初観測が「歴史的」と言われる貴重な一歩であることも感じとっていただけると思います。

とはいえ、そんなに構えて読んでいただく必要はありません。できるだけやさしい表現を用いるように心がけましたので、まずは「ノーベル賞確実と話題になったからちょっと読んでおくか」くらいの軽い気持ちで読み飛ばしていただいて大丈夫です。でもひょっとしたら、あらためてじっくりと読み返したくなるかもしれません。

少しでも、重力波研究の面白さ、そして大いなる可能性を感じとっていただければ幸いです。

読書人の雑誌「本」2016年10月号より