国民負担にまっしぐら!
支援機構の負担金を電気料金に上乗せ
「電力会社」懐柔を企む財務省・経産省

政府案は「東電の決算対策」
東京電力・福島第1原子力発電所〔PHOTO〕gettyimages

 菅直人政権は5月13日に開いた閣僚懇談会で、東京電力・福島第1原子力発電所事故の損害賠償の支援に関する政府案を了承し、新聞、テレビが破格の扱いで報道した。

 しかし、閣僚懇談会は、内閣法で規定される閣議と性格がまったく異なるもので、何の法的根拠もない閣僚の意見交換の場に過ぎない。今回の政府案は"カラ証文"に終わる可能性もある。

 そんな閣僚懇談会をあえて開いて、政府案を了承するというパフォーマンスを断行した狙いは、ひとつだけ。20日に迫った決算発表の席で、未曾有の賠償負担に耐えかねて東電の経営が破たんしかねない、との意見を監査法人が表明するのを防ぐことだった。

 驚くべきことに、関係者によると、この政府にあるまじき上場民間企業に対する経営破たんリスク隠しの舞台裏では、条約や法令の審査を担当する内閣法制局が「政府案は、全国の電力会社に賠償費用の分担義務を課そうという内容で、憲法違反の疑いが強い。全国の電力会社に提訴されれば、国が敗訴する恐れがある」と支援策の法案化に待ったをかけた事実があるという。

 それでも、菅政権では、政府案を5月中に法案化しようと、財務官僚を中心に、国民負担を「極小化する」という公約を反故にして、電力会社の負担を容易に電力料金に転嫁できる案をちらつかせ、電力会社の懐柔を試みているという。円滑な値上げをエサに、訴訟を起こさないという内諾を取り付けようとしているのだ。

 そんな法案は、仮に閣議決定に漕ぎ着けたとしても、6月22日にまでと残された会期の少ない今国会で成立するとは考えにくい。結果として、急務にもかかわらず、被災者への本格的な生活保証や賠償が今年秋以降にずれ込むのは確実と言えそうだ。

 新聞各紙は概ね13日の夕刊で、東京電力・福島第1原子力発電所事故の損害賠償について「政府が支援の枠組みを正式決定した」と大きく報じた。しかし、その決定が実施の前提となる法案の閣議決定ではなく、単なる「閣僚懇談会での了承」に過ぎないことの意味をきちんと報じた記事は皆無と言ってよいだろう。

 ちなみに、政府案の柱は、1.政府が、新法で支援組織(機構)を設置し、換金が容易な交付国債の貸し付けや借り入れに政府保証を付けることによって必要な資金を賄う、2.全国の電力会社(原子力事業者)に、原子力発電の多寡を基準に応分の資金負担を求める、3.機構は、東電を公的管理下に置き、必要に応じて賠償の支援を行う、4.機構は、東電の将来の収益の一部から返済を受ける資金と、電力会社の今後の負担金を原資として、政府に公的資金を返済する---といった点である。

 今回の政府案は、これまで本コラムはもちろん、各方面から様々な問題点を指摘されてきた。にもかかわらず、菅政権はそうした指摘にほとんど耳を貸そうとしなかった。

 できあがった政府案は、端から東電という会社を擁護し、地域独占を始めとした特権の数々をこれまでと同様に存続させるばかりか、銀行が問われるべき貸し手責任や、株主が果たすべき出資責任なども不問に付す内容だ。

内閣法制局も難色を示す政府案

 新聞各紙で目立ったのは、政府が支援策に「国民負担の極小化を基本に、東電を支援する」との文言を盛り込んだと持ち上げる論調だ。各紙がその担保として評価したのは、「新たな機構が東電を公的管理下に置く」というくだりだ。しかし、この問題を多少なりとも真面目に取材していれば、権限も、能力も、人材も何もない、無い無い尽くしの新設機構の公的管理が機能するはずがないことはわかるはずである。

 実効性の乏しい政府案が、あえて、この時期に閣僚懇談会で了承された狙いは明らかだ。東電が再三先送りしてきた決算発表が今月20日に迫り、もはや逃げ隠れできない状況があるからだ。このままでは、その決算で、東電の会計監査を担当している新日本監査法人から、「監査法人としては、東電の賠償負担が未知数であり、今後の経営(会社)の存続を保証できない」との趣旨の意見が添えられるのは確実だった。そうなれば、東電は、直ちに、上場廃止や、事実上の経営破たんに追い込まれかねない、と菅政権は怯えたのだ。

 さらに、東日本大震災の発生以前からの分も含めれば総額で4~5兆円の融資をしている銀行も、重い不良債権の処理負担を背負い込むことになる。特に、震災後に、1兆9000億円の無担保融資に応じたメガバンク各行は、経営責任に直結する失態になりかねないと政府に泣きを入れていた。

 そこで、菅政権が、混乱のそもそもの責任を問われたくないとの思いにかられて、正式な「法案の閣議決定」をできない中で、とりあえず苦し紛れの「閣僚懇談会の了承」を演出した、というのが掛け値無しの実情なのである。

 東電、銀行、株主の救済を重視する今回の支援策は、その中身も問題だらけだが、それ以上に深刻なのは、政府部内に、法案として取りまとめてはならないという反対論があるという事実だ。

 しかも、法案が閣議に付される前に内容を審査する内閣法制局が、反対派の主力という。これでは、これ以上ないほど、事態が深刻と断定せざるを得ない。

 では、内閣法制局はいったい何を問題視しているのだろうか。それは、機構の性格と、東電以外の電力会社に機構への負担金の拠出を義務付ける点らしい。

 というのは、政府案では、機構は、銀行にとっての預金保険機構のような存在で、その負担金は、将来の事故に備える保険という位置づけと説明されているにもかかわらず、実際には、福島原発事故の賠償に負担金が転用されることが内定しているからだ。

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