医療・健康・食

元国立がんセンター病院長の本音「確かにダメな外科医が多すぎます」

日本の医療はどこが歪んでいるのか?
週刊現代 プロフィール

松山 医療技術を集積することが、これからの日本の医療には必要になってきますね。高度な手術は一部の病院で行うべきです。

そのためには、日本の医療事業体の規模はまだまだ小さすぎます。世界的に見れば年間1000億円レベルの売り上げがあって、初めて世界標準の医療事業体といえます。

土屋 日本でトップレベルのがん病院であるがん研ですら売り上げは350億円くらいですからね。

患者さんは病院の売り上げと医療の質は関係ないだろうと考えるかもしれませんが、そんなことはありません。

たとえば、CTやMRIといった機器を動かすのにも、日本だと1日8時間くらいしか稼働していない。アメリカではきちんと交代制ができていて機械が16時間動いているから、無駄が少ない。

 

薬の量が減らない理由

松山 アメリカでは高度医療の集中化が進んでいます。ピッツバーグで地域包括ケアを行う医療事業体は1兆4000億円規模の売り上げがあり、世界中から専門家が集まって、議論をしながら最新の医療を行っている。

また、医療の質やコストを比較して公表することは欧米諸国で当たり前になっています。たとえば、オーストラリアの公立病院は、州政府がインターネットで成績表を公開しています。予定外の再入院の発生率、ベッドから落ちて骨折したケースの発生率など、様々な公開情報を見て病院を選ぶことができるのです。

土屋 それはすごいシステムですね。

日本では、診療報酬の制度も改められるべきでしょう。「週刊現代」が特集しているように薬の飲みすぎが社会問題になっていますが、これは医者が患者に「本当に薬が必要かどうか」をゆっくり諭しても報われないからです。30分かけて「薬を飲むよりも食事や運動が大切だ」と説いて聞かせたとしても、診療報酬が増えるわけではない。

松山 薬の飲みすぎが起きるのは、患者がどのような医療を受けているのか、一元管理できていないからという面もあります。

5年前に取材したアメリカの例では、医師と保険会社がチームを組み、医療費の削減に取り組んでいました。保険会社が患者たちの受診歴、投薬歴などの情報を医師に提供し、患者が病院に来るのを待つのではなく、逆に医師が受診すべき患者を指名します。この疾病管理と予防の結果、医療費が節約できたら、医師に報酬を支払うのです。

医療費を抑制したら医療の質が落ちるとは限りません。長野県がいい例です。長野県は医療費が低い一方で県民の平均寿命、高齢者の健康寿命が日本一になっています。

土屋 無駄な薬や医療をなくすには患者自身の意識も変えなければならない。その薬が本当に必要かどうか、自分の身体に問いかけてみる。

私はいま高血圧の薬と、以前十二指腸潰瘍をやったので腸の薬を飲んでいます。コレステロールが高いからといって薬を出されたこともありましたが、次の検診で数値が下がっていたので、その薬はやめました。

薬を信用しすぎないで、本当に必要な薬はなにか自分で考えることが大切なのです。

つちや・りょうすけ/'46年生まれ。神奈川県立病院機構理事長、がん研究会理事。専門は胸部外科学(とくに進行肺がんの手術)。医療教育、医療制度に造詣が深い
まつやま・ゆきひろ/'53年生まれ。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・経済学博士。社会保障審議会福祉部会委員。専門は社会保障制度改革の国際比較、医療産業政策

「週刊現代」2016年10月8日号より