医療・健康・食

元国立がんセンター病院長の本音「確かにダメな外科医が多すぎます」

日本の医療はどこが歪んでいるのか?
週刊現代 プロフィール

土屋 大学病院という組織が抱えている問題は山のようにありますが、いちばん大きな問題はガバナンス(組織の統治)の問題です。

たとえば先ほども出た群馬大のケース。腹腔鏡手術をやりたがる医者がいた場合、それをやらせても安全かどうか判断するのがガバナンスです。

私は群馬大のケースでも、手術を失敗した医者だけに責任を取らせるのは間違っていたと思います。本来、手術を行わせていた学長は「現場は悪くない」と、医者を守るべき立場にあるはずです。問題になった医者は使命感に燃えて手術をしたのかもしれない。腹腔鏡という技術のメリットを信じてもいたのでしょう。だが、腕が悪かった。

そのような医者に野放しで腹腔鏡手術をさせたのは病院のガバナンスがいい加減だったからです。

松山 アメリカの場合は、病院のリスク管理も徹底している。NASAの専門家を呼んできて、宇宙工学のレベルでリスク管理を行っているところもあるくらいです。

事故が起きたら責任は一義的には医療機関が取って、医者を守る。その代わり、医療チーム全員で診療内容をチェックして無駄で危険な治療は絶対行わせないような仕組みになっているのです。

土屋 もちろん、技術力の高い医者を育てることも大切です。しかし、いまの日本の制度ではなかなかそれが難しい。なぜなら、きちんとした専門医制度が確立していないからです。

私の専門である肺がんを例にとりましょう。

肺がんの手術は年に約3万件行われています。外科医が技術を向上・維持するためには、できるだけたくさん手術を経験することが肝要です。理想的には毎日1度は手術をしたほうがいい。そう考えると年間300例くらいは、1人の医者が執刀することになる。

すると、3万件の手術を行うのに必要な医者の数は100人程度です。逆にいえば、肺がんの専門医はこれ以上必要ない。外科医が現役で手術を行う年数が20年として、毎年5人ずつ専門医を育成していけばそれで済むわけです。

松山 実際には、肺がんの専門医は何人くらいいるのでしょう?

土屋 それが1000人もいるのです。15年前には1500人もいました。これは5年以内に50の症例をこなせば、専門医に認定されるという制度になっているからです。5年で50例といえば、年に10例、月に1例もないのですよ。

このような制度では技術の質を保証できるわけがありませんし、そんな医者を「専門医」とは呼べません。

大工だって毎日釘を打っているから、正確に打てるようになるんです。月に一度しか金槌を持たない大工を信用できますか? ましてや外科医は人様の身体を切る仕事ですよ。

 

松山 専門医制度も含めて、いろいろな改革が必要ですね。

とりわけ大学病院の組織改革は重要です。まず病院を大学から分離するべきでしょう。経営感覚のない医学部の教授が口を出す結果、医療ニーズとミスマッチの過剰投資を続けている。病院を分離することでまともな経営体に変革し、医学部は基礎研究や若い医者のための教育に専念する仕組みにすべきです。

土屋 私も同じ意見です。基礎研究をやっていて、実験室にこもっている教授たちが病院長を選ぶというのはおかしい。

基礎研究は学部でやればいいが、臨床研究は病院でなければできませんので、大学病院でする。ただし、臨床研究をしっかり行うような病院は全国で10ヵ所もあれば十分です。