防衛・安全保障
シリア内戦をめぐって米露が非難合戦! 何が起きているのか?
超大国アメリカの焦りと苛立ち

感情的なロシア批判

イギリスの外交官には共通する特性がある。いかなる状況においても決して感情的にならないことだ。

イギリス人外交官を怒らせることはほとんど不可能、というのが筆者の経験則である。知人の英外交官によると、沈着冷静さは外務省採用試験の過程でじっくり試されるそうだ。

国家の危機、難交渉に際しても冷静さを失わないことが国益にとっていかに重要であるか。外交巧者のイギリスが歴史的に備えてきた知恵なのだろう。

こんな話をするのは、ケリー米国務長官が21日に国連安保理でのシリア内戦をめぐる討論で行ったロシア批判があまりにも感情的だったからだ。

空爆で破壊されたシリア・アレッポ市街〔PHOTO〕gettyimages

その姿は、プーチン露大統領に好き放題にされ、〝外交的ダンス〟を踊らされている超大国アメリカの苛立ち、焦りを露呈するものだった。イギリスの外交的知恵から判断するなら、米露の外交対決の結果はすでに見えていると言えよう。

本稿では、安保理での米露非難合戦から見えてくる世界の現状を考えてみたい。

* * *

シリア内戦をめぐっては、今年2月に合意した停戦が破綻。ケリー国務長官とラブロフ露外相は10日にジュネーブで新たな停戦に合意した。

内戦の構図を改めて確認すると、ロシアやイランに支援されるアサド政権と、米国など「有志国連合」が支援する反政府勢力の対立に、過激派組織「イスラム国(IS)」やアルカイダ系「シリア征服戦線(旧ヌスラ戦線)」などが加わるという極めて複雑なものだ。

今回の停戦も、アサド政権が22日に攻撃再開を宣言してすでに破綻した。

物議を醸しているのは、北西部アレッポで19日、停戦合意を受けて人道支援物資を運んでいた国連のコンボイ(トラック隊)が攻撃を受け、約20人が死亡した事件をめぐってである。

米国はロシアかシリアの行為だと非難し、両国が完全否定する中で国連安保理での討論が行われた。この場の様子はざっとこんな具合だった。

ラブロフ外相「人道支援コンボイ攻撃の完全かつ公平な調査を求める。攻撃は(反政府勢力支配地域の地上での)砲撃であった可能性を示す多くの兆候がある。だから、感情的な反応、マイクをつかんでコメントするようなことは慎むべきだ」

ケリー国務長官「ロシアの同僚の言うことを聞いていると、我々は別の世界に住んでいるとしか思えない。ここにいる誰もが、第二次大戦後最大の人道危機をもたらしている当事者(シリア)の代理人が誰であるかを知っている。これはジョークではない。我々は真剣な話し合いを行っているのだ」

ラブロフ外相が微動だにせずじっと睨みつける中、激情したケリー長官は“しらばくれるのもいいかげんにしろ”と言い放ったのである。

ケリー国務長官〔PHOTO〕gettyimages

アメリカの弱み

アメリカは、国連のコンボイが攻撃された時間帯に2機のロシア製戦闘爆撃機スホイSu-24が上空にいたこと、空爆が2時間にわたり執拗に行われたことを明らかにしている。

アメリカの偵察能力からすれば、シリア、ロシア軍機のより詳細な動向を把握していることは間違いない。

それでも、ロシアはコンボイの炎上は地上で起きたものだと主張し、平然と「公平な調査」を求めて強気を崩さない。アメリカは情報戦の手の内を明かせないとタカをくくっているのだろう。

アメリカ側には、ロシアと完全には決別すれば、シリア危機の混迷が一層深まるだけだという弱みもある。

しかし、国連コンボイへの攻撃が意図的なものであったことは疑いようがない。筆者の経験から言ってもそうだ。1990年代後半のコソボ紛争を取材した際、プレスを乗せた移動バスでさえ、標的にならないようバスの移動経路は関係国軍へ伝えられていた。

国連コンボイは、停戦合意に基づき、アサド政権軍に包囲されて兵糧攻めに遭う封鎖地域(約25万人)の一部に食料や医薬品を運ぶものだった。その移動経路がシリア、ロシア軍に伝えられていなかったことはあり得ないのである。

この点を押さえれば、コンボイ攻撃は「悪魔の仕業」としか呼びようがなく、戦争犯罪として断じるべき行為であることが理解できるのではないだろうか。

アサド政権による病院への攻撃が繰り返され、化学兵器の継続使用が疑われても、5年も続くシリア内戦には国際的な関心があまり集まらなくなっている。

約45万人が死亡し、人口の半数近い1168万人もの難民・国内避難民を生んでいる危機に対し、戦争とテロに慣れてしまった国際社会は想像力が働かなくなっているのかもしれない。