アメリカ 大統領選挙
トランプの「強さ」と民主党の隠れた「急所」
「利益」と「理念」の板挟み政治

選挙の勝敗を決める3要因

選挙の勝敗は比喩的にいえば「玉」「風」「技」の要因が絡み合って決まる。なにかひとつの要因が突出していても勝利できない。

「玉」とは候補者の資質・経験・物語である。「風」とは議会の多数党と少数党の勢力図、世論、内外の政治経済などのいわば環境条件だ。「技」とは組織の知恵・資金などで、キャンペーン技術やブレーンとなる政策エリート集団、シンクタンクなどのインフラも含まれる。

「技」は必要条件ではあっても十分条件ではない。資金力があれば、一流の選挙コンサルタントを雇用できるし、広告も湯水のように打てるが、それだけでは勝利できない。

テキサスの富豪ロス・ペローや、「フォーブス」誌のスティーブ・フォーブスらは、大統領選挙に莫大な私財を投じたが敗北した。遣い切れないほどの資金を集めたジェブ・ブッシュも早々に敗退した。ドナルド・トランプが指名を獲得したのは、彼が富豪だったからではない。

「玉」の重要性は強調するまでもないが、アメリカではエリートのお墨付きだけでなく、草の根の下からの支持が欠かせない。政党幹部が候補者を決める日本と違って、アメリカでは候補者が個人の人物力で有権者に認めてもらってはじめて予備選挙を勝ち抜ける。

大統領の場合、国民が納得できる文化的「象徴性」も「ファーストファミリー」には求められる。

経済、国際情勢で喫緊の課題が山積しているなか、大統領選挙では内向きの文化争点も重要視される。同性婚から人工妊娠中絶まで、国論を二分する価値判断を下す最高裁判事の指名権が、大統領には与えられているからだ。

2016年選挙の構造的「異変」

どれも大切だという前提でいえば、最も大切なのは「風」である。

風には「追い風」だけでなく「向かい風」もある。オバマは特異な生い立ちと資質を持つ候補で「玉」の個性も光っていたが、凄まじい「追い風」にも恵まれた。

皮肉で悲劇的な現実だが、イラク戦争がオバマ政権誕生の最大の「追い風」だった。

戦争の長期化にともなう「大きな政府」化で、ブッシュ息子政権は共和党保守派から見放され、後継を自認したマケイン候補の足を引っ張った。他方、開戦に賛成票を入れていたヒラリーは、戦争の泥沼化の中でリベラル派の支持を喪失し、オバマ擁立運動の種を民主党内に自ら撒いた。

2016年大統領選挙は序盤、ヒラリーが圧倒的な組織力で「技」ではリードしてきたかに見える。

しかし、「玉」では、「アメリカン・ドリーム」の体現者としての型破りなカリスマ性はトランプの武器となっており、他方でヒラリーは法律家、政治家としての実務と能力では史上類例がない実績を誇る。違う次元で双方、突出した個性を持つ。

〔PHOTO〕gettyimages

「初物」という点でも、トランプは「初の公職経験無し」の大統領を目指している。州知事、連邦議員、副大統領などの公職あるいは軍の英雄を経験していない大統領は珍しい。ヒラリーに関しては「初の女性」以上に特異なのは、「初の元大統領の配偶者」であることだ(これは彼女の武器でもあり批判を招く種でもある)。

こうした「玉」の興味深さはあるものの、2016年選挙の構造的な異変は「風」にこそある。トランプという第三軸的な人物が、二大政党の正式な候補者になったことで、近年の二大政党の政策の棲み分けのラインが壊されてしまったからだ。