企業・経営
なぜ「シダックス」だけが大量閉店に追い込まれたのか?
カラオケ市場は伸びているが…

カラオケチェーン大手のシダックスが大量閉店に追い込まれている。カラオケ市場の拡大と共に急成長した同社が苦境にあえぐ理由はどこにあるのか?

社員食堂からビジネスをスタートさせたシダックスは、食事メニューの豊富さで人気を集め、ここで稼ぐ構造になっていた。しかし、カラオケ利用者の客層が変化する中、この同社の強みが逆に足かせとなってしまったようなのだ。

カラオケ市場は伸びているのに

シダックスは今年8月、一気に44店舗の閉鎖を断行した。その中には、本社でもある渋谷の旗艦店「渋谷シダックスビレッジクラブ」も含まれる。

4月からすでに一部店舗の閉鎖を始めており、9月末には累計で80店舗がなくなる予定だ。これまで全国で約270店舗を展開していたが、9月以降は190店舗というスリムな体制になる。

ここ数年、同社のカラオケ事業は厳しい状況が続いてきた。2016年3月期のカラオケ事業の売上高は前期比17.4%減の301億5,500万円、部門損失は21億4,400万円に達している。

赤字に転落したのは前期からだが、売上低迷はかなり前から顕著であった。5年前の2011年3月期の売上高は480億円もあったので、5年間で4割近くの売上げを失った計算になる。

なぜ、ここまで急激に売り上げが減少したのか?

大量閉店と聞くと、「市場縮小」というキーワードがまず思い浮かぶだろう。しかしシダックスの場合はそうではない。

カラオケ市場は絶好調とは言えないまでも、利用者数は少しずつ増加が続いており、まずまずの環境が続いている。全国カラオケ事業者協会によると、カラオケ人口は2015年時点において4750万人となっており、過去5年で100万人ほど増えた。またカラオケ事業者が提供するカラオケルーム数も増加が続いている。

カラオケ業界の最大手(店舗数)は「ビッグエコー」を展開する第一興商、業界2位は「まねきねこ」を展開するコシダカホールディングス、第3位は「バンバン」を展開するシン・コーポレーションとなっており、シダックスは業界4位の企業である。

第一興商のカラオケ事業(飲食事業除く)の売上高は前期比10.2%増、コシダカホールディングスのカラオケ事業(飲食事業含む)の売上高も前期比19.8%増と好調だ。どうやらシダックスだけが一人負けしている状況なのだ。

顧客層が変わってきた

市場が伸びる中、シダックスだけが失速しているのは、同社のビジネスモデルに大きな原因がある。

具体的に言えば、「飲食依存度」の高さに原因がある。シダックスのカラオケ店舗における1日あたりの売上高は約30万円だが、まねきねこやバンバンは12万円から15万円とかなり安い。

シダックスは店舗数では業界4位だが、売上高では第一興商に次いで業界2位となる。シダックスは出店に際して、ロードサイド店舗の場合は700坪以上、繁華街型の店舗の場合には300坪以上の大型物件を狙ってきた。これは飲食込みで1店舗あたりの売上高を大きくすることを前提にしているからだ。

これに対して他の3社は、数十坪の物件でも条件が合えば積極的に出店を行ってきた。まねきねこやバンバンにいたっては、居抜き(以前、別のカラオケ事業者が運営していた店舗をそのままの状態で借りること)での出店にも積極的で、店舗によっては飲食物の持ち込みも可となっている。

飲み物や食事の提供は利益の源泉であり、ホンネではどのカラオケ事業者も飲食を積極的に展開したいと思っている。しかし、一部の事業者が持ち込みまで可としているのは、飲食を提供するための設備投資が嵩むことや人件費がかかることが直接的な理由としてあるのだが、それ以外にもカラオケの顧客層が大きく変わってきたことに原因がある。

〔PHOTO〕iStock

「1人カラオケ」ブームへの対応

かつてカラオケ店は、学生や会社の宴会用途に使われることが多かった。広めの部屋と豊富な飲食メニューを用意することは顧客のニーズにマッチしていたのである。シダックスはこうしたニーズをうまく取り込むことで成長した。

ところが現在ではこうした目的で使われるケースは以前に比べて少なくなっている。ライフスタイルの多様化に伴って、大規模な宴会を行う職場が減り、学生も景気の悪化などによって自由に使えるお金が減ったため、大勢集まってカラオケで大騒ぎしている余裕がなくなったのだ。

だが、カラオケそのものに対するニーズがなくなったわけではない。最近ブームになっているのは、1人カラオケである。文字通り1人でカラオケを楽しむことだが、各店舗とも、1人カラオケ料金を設定したり、コシダカのように1人カラオケ専用の店舗を積極的に展開したりしているところもある。

1人カラオケの場合、宴会のように大量の食事や飲み物をオーダーするケースは少ない。ただ黙々と好きな歌を歌い続けるだけだ。このため、客単価が安い分、客数を増やす努力をしなければ、利益を上げることは難しい。

だが、カラオケ事業には物件の広さという制限があり、いくら単価を安くしても、一定以上の利用者を入店させることはできない。安い単価で利益を出すためには、同時に低コスト化を徹底的に進めていく必要がある。

1人カラオケ専用の部屋は非常に狭く、ヘッドホンを装着して楽しむスタイルのところが多い。これには、利用者により深くカラオケを楽しんでもらうという意図もあるが、同時に店舗コストを大幅に削減できるメリットもある。

例えば、コシダカの1人カラオケ専門店「ワンカラ」南池袋店では、平日の場合30分450円でカラオケが楽しめる(別途、ヘッドホンレンタル料金300円が必要)。平日限定で「朝うた料金」も設定されており、こちらは30分300円とさらに安い。

基本的にすべてのプランにドリンクバーが付いており、飲み物はタダだ。30分で店を出れば、喫茶店でコーヒーを飲むのと変わらない程度の金額で飲み物が飲めてカラオケまで歌えるわけだ。