自動運転車 AI
自動運転車の事故は「原理的に」避けられない!? AI技術の死角
テスラの死亡事故が残した教訓
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死亡事故の波紋

今年5月に米テスラ・モーターズ製の電気自動車「モデルS」が引き起こした死亡事故が波紋を呼んでいる。同車種では「オートパイロット」と呼ばれる(限定的)自動運転機能が利用可能であり、事故を起こしたドライバーは高速道路を走行中に、この機能を利用していたからだ。

事故の具体的な様子は後述するが、自動運転中のモデルSは対向車線から左折してきた大型トレーラーと衝突。これがドライバーの死亡へとつながった。

ここ数年、グーグルや日米欧など世界各国の自動車メーカーは自動運転車の開発に注力し、一般道などで極めて長距離に及ぶ試験走行を重ねてきた。その過程で「接触事故」のような軽度のアクシデントは時折報告されたが、ドライバーや同乗者の死亡、あるいは重傷といった重大な事故はこれまで一度も起きたことはなかった。

このため順調に開発が進めば、今後、段階的に自動運転技術が自動車に導入され、2020年頃には完全な自動運転、ないしはそれに近い機能が実用化されるとの見方が強まっていた。

その矢先に起きた今回の死亡事故は、これまでの楽観的な観測に深刻な陰を落とし、自動運転の実用化に関する各社の将来計画に少なからぬ影響を与えたと見られている。

たとえば米ゼネラル・モーターズ(GM)は、今年(2016年)の秋に製品化する予定だった(限定的)自動運転車の発売を来年まで延期した模様だ。今回のテスラ車による死亡事故を受けて、自動運転機能の安全性を今以上に高めてから市場に投入する意図と見られる。

また米フォードは「(オートパイロットのような限定的な自動運転機能ではなく)ドライバーの要らない完全な自動運転機能を2021年までに実用化する。当初は一般消費者向けに発売するのではなく、(米Uberのような)配車サービス事業者(ride-hailing service)などに提供する」との計画を明らかにした。

いずれのケースでも、自動運転技術に関する、各社のこれまでの計画や開発方針が相当の見直しを迫られていることが伝わってくる。

オートパイロットとは何か?

今回の事故はなぜ、それほど大きなインパクトをもたらしたのか?

それを考える上で、そもそもテスラのオートパイロット、つまり「限定的な自動運転(半自動運転)」とはどんな機能なのか。そして、それによって引き起こされた今回の事故は、具体的にどんなものであったのか。これらについて知っておく必要があるだろう。

テスラが2015年10月にリリースしたオートパイロットは、その使用環境を高速道路(freeway、highway)に限った「限定的な自動運転機能」である。

この機能は基本的にテスラ モデルSに搭載されている基本ソフト(車載OS)の、「バージョン7」へのアップデートによってクルマに実装される。つまり無線インターネット経由で、(車載OSの一部として)自動運転機能をダウンロードすることによって実現される機能である。

モデルSには元々、「ビデオカメラ」や「ミリ波レーダー」、さらには「超音波センサー」など各種センサーが装備されている。モデルSにダウンロードされたオートパイロットは、これらのセンサーから入った外界情報を、ある種のAI(人工知能)で処理することによって自動運転を行う。

前述の通り、オートパイロットは基本的に高速道での利用を想定した限定的な自動運転機能だ。高速道では、「交差点での信号待ち」など一般道における複雑な運転が必要とされないため、初期段階の自動運転を試すには理想的な環境と考えられたからだ。

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オートパイロットで出来ることは、ハンドルやアクセル、ブレーキなどからドライバーが手足を離しての自動運転である(後述するが、厳密には「完全な手放し運転」ではなく、ハンドルに軽く手を添えておくことが求められる)。

この状態において、クルマ(モデルS)は高速道の車線をキープしたまま、前方を走る車両を追尾する。また(渋滞時などでは)前方の車両が停車すれば、オートパイロット(モデルS)も自動ブレーキで停車する。さらに、停車していた前方の車両が再び発進すれば、オートパイロットもそれを追って発進する。

これらの点から見て、少なくとも現時点のオートパイロットは「高度なACS(Adaptive Cruise Control:自動追尾機能)」の一種と見る向きもある。ただ、それ以上の機能も用意されている。

オートパイロットでは、ドライバーが方向指示器を傾けて右か左の車線を指示すれば、それに従って自動的に車線変更する。その際、各種センサーで自分の周りに他のクルマがいないことを確認している。仮に他のクルマがいた場合には、そのクルマをやり過ごしてから車線変更する。これは従来のACS以上の機能と見ることができる。

以上のようなオートパイロットはオプション機能として提供されるため、これを使いたいドライバーは、2,500ドル(日本では31万3,000円)の追加料金を支払う必要がある。

ただしテスラは現在のオートパイロットをベータ版(試作版)と位置付けている。つまり、それがリリースされた後も、テスラはドライバー(ユーザー)による実際の使用データを(無線インターネット経由で)吸い上げ、これをサーバーで解析することにより、オートパイロットを継続的に改良していく方針だ。

また、テスラはドライバーに対し「オートパイロットを使用する際には、両手をハンドルに軽くかけておくように」と釘を刺している。

ところが実際のドライバーはテスラの指示通りにオートパイロットを使用しているわけではない。中には完全にハンドルから手を離して、車中で「ビデオゲーム」など運転以外の操作に気を取られるドライバーも少なくない。また「高速道に限定」という使用条件も無視して、一般道でオートパイロットを使用するドライバーまでいる。

そうした中、ソフトウエアのバグが原因で、オートパイロットによる自動運転中に「クルマ(モデルS)が勝手に本来の進路を逸れる」といった事象が報告された。

他にも死傷事故すれすれのトラブルが発生し、それを車内からビデオ撮影した様子がユーチューブに投稿されるなどして、オートパイロットのリリース直後から、その危険性を指摘する声が数多く聞かれるようになった(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/46058)。

一方、テスラはあらかじめ、オートパイロットを「ドライバー支援機能の一種」と位置付け、「運転の主体はあくまでドライバーである」とした上で、「仮に、これによる事故が発生しても、その責任は自動車メーカー(テスラ)ではなく、ドライバーの側にある」と断っていた。

とはいえ、メーカー側が危険な状況を放置しておけるはずもなく、前述のようなソフトウエアのバグは、発見されてから間もなくテスラによって修正された。