マスコミが報じなかった重大な「薬と手術」ミスの数々
意外と身近な死のリスク

ステロイドの大量投与で死亡

「糖尿病を患っていることを、うっかり忘れていた」—。

昨年12月、糖尿病患者にステロイドを大量投与し、患者を死亡させる事件が、岐阜市民病院で起こっていた。

亡くなった患者は70代の女性。脳症を患い、意識障害を発症したため、この病院に運ばれてきた。

岐阜市民病院の杉山保幸副院長は、当時の様子をこう語る。

「複数の医師で検討した結果、非常に珍しい『橋本脳症』(脳の免疫疾患)の可能性があるとのことでした。意識障害を伴ったままの入院だったので、『ステロイドパルス投与』の決断も急を要したのです。

糖尿病の既往歴があることは、先にかかっていた病院からの情報で分かっていましたが、治療のほうに目が向いていたのか、主治医(20代後半)もスタッフも血糖値の確認を失念してしまった」

ステロイドパルス投与とは、3日間、通常の量の10倍以上のステロイド薬を投与し、劇的に症状を回復させようとする治療法だ。ステロイドには、たんぱく質を分解し、糖を作り、血糖値を上昇させる作用がある。そのため糖尿病患者の場合、命にかかわることもある。

東海大学名誉教授の大櫛陽一氏は「今回のミスは、内科医としてあってはならない」と指摘する。

「医薬品添付文書にも、糖尿病患者へのステロイドパルス投与は高浸透圧高血糖症候群のリスクがあると記載されている。橋本脳症と糖尿病の治療ガイドラインにも同様の記述があります。

ただ最近は内科もどんどんと専門分科が進んでいます。糖尿病専門の治療医であったら今回の事件は避けられたでしょうが、専門としていない内科医だと見落とす可能性もある。今回は医師個人にも問題がありますが、専門化の弊害も感じます」

とはいえ、他の医師や看護師、薬剤師から指摘があってもいいはずだが、なぜそれがなかったのか。

「もしかしたら、看護師は糖尿病があることを把握していたのかもしれませんが、基本的に薬の処方権は医師にあるため、看護師はあまり口を出すことができません。

また今回の患者の薬は院内薬局から処方されているはずです。そこで薬剤師が気づくことができたらよかったのですが、薬剤師は患者の病気の既往歴まで把握していることは少ない」(大櫛氏)

前出の岐阜市民病院の杉山副院長が語る。

「もちろん当院でも看護師や薬剤師など、ダブル、トリプルのチェック体制があるのですが……。それが機能していれば、このような事態を招くことはありませんでした。でも実際には機能していなかった。本当に申し訳ございません」

今回の件は、遺族との間で示談が成立し、病院側も医療ミスがあったことを全面的に認めている。この患者を担当した若い医師は、すでに現場に復帰しているという。

「古い薬」を出す医者がいる

前項でも紹介したように、大学病院のように大規模な組織であるほど、情報共有がうまくいっておらず、実は危険な場合も多い。それに加え医療ミスが起こっても、それを隠蔽する体質も根強く残っている。「治療現場=ブラックボックス」と言われるのはそのためだ。

実際、報道すらされない「薬の誤投与」はまだまだある。ある医療ジャーナリストが語る。

「よくあるのは、名前が似ている薬の『取り違え』です。たとえばノルバデックス(乳がんの抗がん剤)とノルバスク(降圧剤)や、テオドール(気管支喘息の薬)とテグレトール(てんかん薬)を間違って投与する初歩的なミスは、未だに後を絶ちません。

また、医師が口頭で『○ミリ投与するように』と伝えたところ、看護師が「mg」と「ml」を勘違いし、何倍もの薬を誤投与してしまったというミスもよく聞きます」

現在日本では、5人に一人が悩まされているという「不眠症」。精神的不安が原因で眠れずに、睡眠薬を処方されている人も少なくない。

そんな中、先頃、医療経済研究機構から、睡眠薬に関する「ある調査結果」が発表された。

睡眠薬を大量に服薬し、入院した患者のうち27%の人が、50年以上前に販売された古い睡眠薬(ベゲタミンなど)を飲んでいたことが明らかになったのである。さらにそれらの古い睡眠薬を飲んでいた患者を調査したところ、24%の人が誤嚥性肺炎を起こしていた。

新横浜フォレストクリニックの中坂義邦院長は、睡眠薬の過剰摂取と誤嚥性肺炎の関連についてこう語る。

「ベゲタミンは精神科で主に使用される薬で、フェノバルビタール、プロメタジン、クロルプロマジンという3種類の薬を配合したものです。特にフェノバルビタールは脳神経の抑制が非常に強く、効きすぎてしまうことがある。

睡眠薬は、長期間服用し続けていると神経の伝達物質を抑えてしまう恐れがあります。そうすると物を飲み込む機能が低下し、食べ物や唾液が気管から肺に流れてしまうのです。特に高齢者は誤嚥性肺炎を起こしやすいので注意が必要です。

しかも睡眠薬は依存性が強く、一度使うとなかなか抜け出せない」

しかし、なぜベゲタミンというリスクの高い、古い薬が今でも処方されているのか。

「リスクも高いですが、効果も非常に強い。だから他の睡眠薬では眠れない患者さんの最終手段として残っていたのです。

ベゲタミンは自殺目的で大量に服用する人も多く、日本精神神経学会は以前から販売中止の要望を出していました。ようやく今年の12月には販売が中止される予定です」(薬剤師)

睡眠薬だけでなく、薬による副作用で苦しむ人は多い。だが、そのほとんどは世間に公表されていない。本誌に届いた読者からの手紙の中にもこんな声があった。

「高脂血症薬のリバロを飲み続けていたら体の痺れ、眩暈、ふらつきが起こるようになった」(栃木県在住の70代女性)

「降圧剤のミカルディスを飲んでいたら、血圧が下がり過ぎて血栓を押し流せなくなり、血栓が詰まって脳梗塞を発症した」(千葉県在住の男性)

「コレステロール値を下げるクレストールを飲んだら、舌や口の粘膜が痛み出した」(兵庫県在住の70代男性)

これらの患者に共通していたのは、薬によって体調が悪化したことを医者に訴えても「多くの医者は取り合ってくれない」ということだ。

特に薬の場合、死亡事故でも起きない限り、医療裁判になるケースはほとんどない。費用も時間もかかりすぎるし、何より医療過誤を証明するのが難しいからだ。

だが報道されないだけで、今も薬の副作用によって苦しんでいる人は何人もいる。

病院はミスを認めない

薬だけでなく手術についても、私たちの知らないところで医療ミスは日々発生している。本誌が行った医者200人へのアンケートでは、多数の事例が寄せられた。

たとえば、がん手術に関してはこうだ。

「大腸がんの手術で、縫合不全のため腹膜炎を繰り返した」

「直腸がんの手術で、残存直腸をつなぐことに失敗し、尿管を傷つけてしまった」

「胃と十二指腸の縫合方法を知らずに、胃がんの手術を行った医者がいた」

「膵臓がんの手術で下腸間膜静脈(腹部にある静脈)を損傷した」

さらにがん以外の手術でも、こんな医療ミスが挙がった。

「脳腫瘍の摘出術をする際に止血が不十分で術後出血があった。にもかかわらず経過観察になり、数時間後に再手術をしたが、その患者さんは寝たきりになった」

「胆嚢結石で腹腔鏡手術の際、胆嚢管と誤認し、総胆管を切ってしまった」

「寝たきりになり胃瘻造設術を行ったところ、誤って腸に穴をあけ腹膜炎で死なせた」

報道されないのが不思議なくらい、このような医療ミスは全国にごまんとある。

術後の後遺症に苦しんでいる患者もいる。腰の手術を受けた70代女性の話。

「私は脊椎滑り症で、骨のずれ方が非常に大きく、医者から『手術しか手がない』と言われ、渋々、手術を受けたんです。ところが、腰の痛みは軽減されたのですが、今度は両足に痛みが出てきて歩行困難になってしまった。先生に言うと、『手術の時に神経を傷つけたかもしれないなあ』と言ったきり、病室にも姿を見せなくなりました。私は手術ミスだと思っていますが、それを証明することもできません。結局はこのままの状態で生きていくしかないのです」

腹部大動脈瘤の手術で義父(60代)を亡くしたという男性も「手術ミスを認めない病院」に対してこう憤る。

「腹部の大動脈に瘤が見つかったため手術をすることになったんです。手術は、人工血管置換術と呼ばれるものでした。手術に際し、義父は『本当に大丈夫なんでしょうか』と心配していましたが、その医者からは、死亡に関するリスクの説明はありませんでした。

手術は成功に終わったと聞かされましたが、手術時間は予定を大幅にオーバーしていました」

しかも手術後に縫合の針の数が合わず、レントゲンを撮った結果、患部に針が残っているのが発見され、もう一度、手術を行うことに。

「再手術から数日後、義父は血管に異物が混入し、この世を去りました。これは医療事故だと思い、厚生労働省に直接告発しました。最初に病院に言うと、証拠を隠されるかもしれないと思ったからです。しかし、厚労省は『病院の要請がなければ動けない』との返事でした。仕方なく病院側を問い詰めましたが『こちらに落ち度はなかった』の一点張りで、泣き寝入りするしかありませんでした。

もしあの時、医師から死のリスクを伝えられていれば、手術を回避したかもしれない。医者は人が死ぬということを軽く考え過ぎていると感じます」

たとえ病院側に落ち度があったとしても、病院はそれをできる限り隠蔽し、医師は責任を取ろうとしない—。だからこそ、患者はもっと知識を得て、薬を飲む前、手術を受ける前に、病院と医師の判断をチェックする必要があるのだ。

「週刊現代」2016年9月24日・10月1日合併号より