医学 医療
東大教授6人が論文捏造!? 日本医学界の「最高峰」で起きていること
だから医者の出す薬は信用できない

自分の薬は大丈夫なのか—不安にならざるをえない疑惑が明らかになった。生活習慣病の薬の権威たちの論文に捏造の疑いがかけられている。日本の医療の闇はあまりに深い。

名指しされた6人の教授

「問題の文書が送られてきたのはお盆休みの真っ最中でしたが、医学部内で噂は一斉に広まりました。4人の教授の論文に関して不正があるという告発文書で、医学研究にかなり通じている人でないと書けないような緻密な内容だった。やり玉に挙げられた医局の人たちは夏休みどころではなかったようです」

こう語るのは、東大医学部OBの医者。告発された論文のなかには以前から捏造の疑惑が指摘されていたものもあって、「いつも偉そうにしていたあの教授のポストもいよいよ危ないんじゃないか」という声も聞こえてくるという。実際、告発を受けて東京大学本部も不正調査の準備を始めている。

「誰が告発したのか、一部では本格的に犯人探しが始まっていますが、手掛かりが一切つかめないようです」(前出の医学部OB)

A4で60ページ超にわたる文書の差出人名は「Ordinary_researchers(編集部注:平凡な研究者たち)」とある。だが、それを読めば、告発内容が「平凡な」ものではないことはすぐにわかる。論文の内容に捏造、改竄の疑いをかけられているのは、日本の医学界における最高権威である東京大学医学部の教授陣なのだ。

告発文は次のように始まる。

「近年、論文捏造事件が大きな社会問題となっている。言うまでもなく、科学論文においてはデータが真正であることが絶対必要条件となる。(中略)特に生命科学分野は、患者をはじめとする社会からの期待が大きく、その影響は基礎科学の範囲に留まらず、事態は深刻である。

今回、我々は日本の最高峰というべき東京大学医学部の複数の研究室が発表した、いくつかの論文についてグラフなどからデータの再現を試み、正当性についての検証をした」

具体的に検証の対象になっているのは、門脇孝教授(糖尿病・代謝内科)を始めとする4名(1名はすでに退官)。実は同じ告発者から8月29日付でもう一通の告発状が出されており、そちらでは小室一成教授(循環器内科)他1名の教授の論文が検証されている。

これらの論文は「ネイチャー」や「セル」といった海外の一流科学誌に掲載されたものがほとんど。合計して6人もの東大教授の研究不正が疑われているのは、異常な事態としか言いようがない。

糖尿病学会のドン

告発文書は、これらの論文を対象にした理由を次のように挙げている。

「(1)研究者のあいだでは、再現性について以前より疑問が呈されていた

(2)雑誌上で他の研究者からcorrespondence(対応を要する質問)が出ており、そのやり取りを見るに、データの信憑性に疑いを持たざるを得ない

(3)扱っているテーマが生活習慣病やパーキンソン病といった疾患で、創薬と深い関係があり、直ちにではなくとも大きな社会問題に発展する可能性がある。治療法の開発を待つ患者さんの存在を考えると、倫理的にも問題である

(4)文科省の科学技術振興調整費・システム疾患生命科学による先端医療技術開発拠点(中略)など、大型の公的予算が使われた研究である

(5)論文中にPDF文書で示されたグラフがベクトルデータ(編集部注:普通の画像データに比べて、細かい数字まで読み取れる種類のデータ)であり、グラフから元データの再現、真正さの検証が可能である」

今回告発された教授たちのなかでも門脇教授の存在感は際立っている。東大医学部OBが語る。

「門脇氏は日本の医学界の頂点にいると言ってもいい権力者です。日本糖尿病学会や日本糖尿病・肥満動物学会の理事長を務め、'10年には長年の研究成果に対して紫綬褒章も受章した。東大病院の院長を務めたこともあり、2年前の医学部長選でも選ばれるはずでした。

根回しもしっかりしていたようですが、ちょうどノバルティスファーマの降圧剤ディオバンの研究不正問題に東大医学部が関与していたことが問題視されていた時期だったこともあり、学部長の座は逃した。

当時、本人の悔しがりようは尋常ではなかったと聞きます。正直、人望のある人ではないし、研究者としても、とびぬけたものがあるとは言いがたい。学内政治をうまくやって現在の地位を築いた人物です」

門脇教授の研究で有名なのは、アディポネクチンという脂肪細胞から分泌される分泌蛋白。「太らないためのホルモン」とも呼ばれ、糖尿病薬や肥満治療薬への応用が期待されている。

「アディポネクチンレセプターについては'03年の論文発表以降、非常に多くの論文が門脇研より発表されており、一流誌に掲載されたものも少なくない。(中略)しかし、研究者のあいだでは再現性の無さが常にささやかれており、その機能に関して疑問を示す報告も出ている。

門脇研の'03年の論文から最新のものまで、多くの論文は図版がベクトルデータとなっている。作図ソフトを用いて個々の図の構成を調べたところ、明らかに不自然な点を発見した」(前出の告発文書より)

本誌はこれまでも生活習慣病薬の効果や副作用について指摘してきたが、門脇教授はそのような薬の臨床研究にも深く関わってきた人物だ。

「例えば、DPP-4阻害剤と呼ばれる比較的新しいタイプの糖尿病薬の臨床研究にも深く関わっていました。その安全性についての情報を集めるという名目で、製薬会社のカネが大きく動いたことは間違いありません。

2年前のディオバン事件以来、あまり見なくなりましたが、かつては門脇研の前には製薬会社のMR(医薬情報担当者)たちがずらっと列をなしていました。教授のお墨付きをもらえれば、日本中で薬を販売するための最高の宣伝文句に使えますからね」(東大医学部の現役教授)

新薬開発において医学部教授の果たす役割は、非常に大きい。薬の開発につながりそうな研究には、たいてい製薬企業からの研究費の補助がある。また薬の認可が下りてからも、副作用や安全性に関して臨床研究は続き、学界の権威たちが関わることになる。

我々が普段、何げなく飲んでいる薬も、このようなプロセスを経て生まれたものだ。実際に、今回のような捏造疑惑が持ち上がる人物たちが、薬の効果や安全性にお墨付きを与えたとするならば、医薬品への信頼は根底から揺らぐことになりかねない。

今回の告発文書の対象には、さらに疑惑の色の濃い人物もいる。循環器内科の小室教授だ。

「小室一成氏は、千葉大学医学部で実施され、日本高血圧学会誌に'10年に掲載されたディオバン研究『VART Study』の責任著者であった。ディオバン研究はデータの不正が指摘され、大きな社会問題になったことは記憶に新しい。

本人からの『訂正を要するhonest error(編集部注:悪意のない間違い)があるが現存するデータでは適切に訂正することができない』との申し出を受けて、VART Studyは本年8月15日に撤回されたばかりである。このような事例を経たにもかかわらず、小室研から'16年に出された論文に依然として不自然な図が見出されることに、我々は大きな驚きと戸惑いを覚える」(8月29日付の文書より)