食育
「学校給食」の不都合な真実…こんなものを子供に与えていいわけない!
『菊乃井』店主・村田吉弘氏が憤慨

学校に通う子供たちの楽しみである「給食」が今、危機に瀕している。食育とは名ばかりのヘンテコなメニューに、日本らしさは見る影もない。問題だらけの給食事情に、日本和食界の大家が物申す。

献立も食器もおかしい

日本は山紫水明の国です。北は北海道から南は沖縄まで、飲めるような軟水が豊富に湧き出て、国の周りには四つの海流が流れていて、獲れる魚種は世界一。国土の7割は山で、平野部にミネラル分の多い土壌が広がる。

そんな恵まれた環境で暮らす日本の子供たちがあまりにひどい給食を食べさせられているんです。

代表例は魚。全国規模の話として、給食で使う魚は生ではなく、味の落ちた冷凍のものに限られています。

さらに問題なのは、それら味の落ちた冷凍食材を使って意味不明な料理を提供していること。私の記憶にあるものだと「サバのソース煮」。日本には醤油や味噌といった伝統的な味付けがあるはずなのに、なぜかウスターソースをかける。これではサバ本来の美味しさなどまるで感じられない。

もっとひどいのは、センター給食を採用している自治体です。センター、つまり民間業者が一括して給食を作っていますが、そこでは衛生面を重視するあまり、野菜などの生ものは85℃で3分間以上加熱しているところも見受けられました。だから野菜炒めなんかはクタクタになって原形を留めていない。しかも工場から学校に届ける間に冷め切ってしまう。当然、味はお察しのとおりです。

以前、刑務所の食事風景を見学させていただきました。そうしたら給食よりよっぽど豪華なんですよ。大人用だから一人当たりの量が多く、魚は丸々一尾。各刑務所で調理しているから、味噌汁も熱々のまま配膳される。それがなぜ子供たちには叶わないのでしょうか。

こう語るのは京都・祇園にある老舗料亭『菊乃井』の三代目主人、村田吉弘氏だ。同店はミシュラン京都・大阪が発売された'09年から最高ランクの三ツ星を獲得し続けている日本料理店の最高峰。主人の村田氏は同店の東京進出や機内食の監修など様々な試みに意欲的に取り組んできた。

そんな日本を代表する料理人が学校給食の実態について憤りをあらわにする。

そもそも私が給食、ひいては子供の「食育」に関心を抱くようになったのは、'13年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことがきっかけでした。文化遺産登録は世界に対して「和食という文化を保護し、後世に継承していく」と約束したのも同然です。

そこで和食文化の価値向上を牽引する組織として、「和食文化国民会議」の立ち上げに携わり、副会長を務めることになりました。そしてまず、「食育」の要である給食の見直しに乗り出したのです。

ただ、給食の現状は想像以上に悲惨なものだと、実際の給食風景を見て初めて気付かされました。

牛乳もその一つ。確かに日本の酪農のことを考えると、給食で牛乳を出すこと自体は間違っていないと思います。それに、あれだけのカルシウム分を一度に摂取できる食材は他にはない。

しかし、ご飯を食べながら牛乳を飲むという行為には納得しかねます。休み時間や放課後に飲ませるという方法があるはずで、白米を主食とした給食の時には、やはりお茶を飲ませるべきです。

食器についても問題があります。昔は、茶碗に小鉢、汁椀と細かく分かれていたはずの食器が、洗浄するのに都合がいいからとひとまとまりになったトレーを使っている。

これでは料理が混ざって味が分からなくなったり、器の正しい持ち方を学べなくなる恐れがあります。実際、私が給食風景を視察に訪れた時には、犬みたいな食べ方を覚えてしまった子供たちも見受けられました。

文科省に一蹴された

とにかく今の子供たちは不味い給食に慣れてしまって、本当の旨味というものに触れ合う機会すらない。そこで和食が無形文化遺産に登録されたその年から、新嘗祭の翌日にあたる11月24日を「和食の日」に制定しようと動いたんです。

文部科学省に出向き、この日だけは日本全国の学校給食で、その土地に伝わる出汁をきちんと使った和食を出すように各自治体に働きかけてもらえないか、と打診しました。

ところが、文部科学省はけんもほろろです。「そんな馬鹿げたこと、文部科学省からは言えません」と一蹴された。文部科学省から全国の地方自治体にそういった形の命令は出せないと言うんです。

おかしいとは思いませんか。文部科学省はHPや学校用教材で食育の推進を謳っておきながら、「前例がない」の一点張りで具体的な施策を起こそうともしません。

仕方なく、草の根運動的に個別の地方自治体から給食の改革に取り組むことを決めたのです。

現在、京都市内の小学校で実施している「和献立」はその代表例で、少しずつですが広がりを見せています。

村田氏らの働きかけにより、京都市内の小学校では月に1回程度の「和献立」が実現した。出汁の旨味を味わえる汁物や煮魚、京野菜をふんだんに使った料理が提供されている。

また、「きょうと食いく先生」(京都府)や「食育指導員」(京都市)制度が発足。農業や漁業にたずさわる人々や料理人など「食を支える専門家」を招いて、農作物の栽培や調理方法、京都の食文化を子供たちに教える活動も行われている。

しかしこれはあくまで京都に限った話。ここに至るまで、かなりの時間と労力を費やしました。

給食費と材料費の差額

その原因は、文部科学省に代わって実質的に学校給食を牛耳っている「全国学校給食会連合会」(以下、全給連)という組織が巨大な壁として立ちはだかったからです。

全給連は、占領下にあった昭和25年に発足した(財)日本学校給食会を起源とする組織だ。だが、その所在地は東京都渋谷区にある「国立代々木競技場」であり、会長は、元Jリーグチェアマンで現日本スポーツ振興センター理事長の大東和美氏。つまり今、子供たちの食を司るのは食のプロではなく、元ラグビー選手のビジネスマンなのだ。

とにかくこの全給連が我々に協力はおろか、賛同する意思すら見せない。こちらが金銭的負担をすると提案しても、うんともすんとも言いません。

全給連への不信感が募ったのには、こうした一件がありました。

親は学校の給食費に1日およそ260円を支払っています。給食を調理する際の光熱費や人件費などはすべて地方自治体が支払っていますから、本来ならばそれらはすべて食材費に充てられるはずです。

食材原価が260円あれば、諸条件から考えて市場価格で780円くらいの定食が提供できるはずです。子供たちはそれにふさわしい給食を食べているのか、というとまったく違う。

そこで、この金額の内訳を全給連に聞いてみたが「我々は関知してない」と言う。それではと、現場で働いている管理栄養士の先生に「どれくらいの材料費で給食を作っているのか」とこっそり聞いてみたんです。そうしたら思いがけない答えが返ってきました。「150円です」と。残りの110円はどこにいったのか。現場の管理栄養士は誰も知りませんでした。

実態を明らかにすべく、給食のレシピを公開するよう全給連に訴えたこともありましたが、完全に無視されたままです。おそらくレシピを公開したら原価計算ができてしまうからでしょう。

なぜ魚がすべて冷凍なのか

他にも、給食で使う魚がすべて冷凍である理由について尋ねると、「天候などが予想できない以上、安定供給のために冷凍食品を使う」という。そのことを京都の中央卸売市場の人に話したところ、「京都中の子供らの数なんてたかが知れてる。十分に生の魚で対応できる」と憤慨していました。

その方は「子供たちに生のサンマを食わしてやってくれ。生の魚の味を知ってもらわないと将来の消費につながらない。何かあっても先行投資だと思って、わしらが責任はかぶるから」とまで言ってくれたんです。ところが後日、進展をあらためて尋ねると、「いや、あかん。全然ダメだった」と。

これでは、全給連が関係先の冷凍食品メーカーらと癒着していると思わざるを得ません。

たとえば、全給連が関係団体として挙げる「学校給食用食品メーカー協会」。この業界団体は、「食品部会」と「冷食部会」に分かれており、食品部会が調味材料まで含んで27社なのに対して、冷食部会だけで15社も名を連ねている。給食においていかに冷凍食品メーカーが大きいウェイトを占めているかが分かります。

我々の活動がおよぶ小学校はいまだ2000校にも満たない。東京なんてたった10校ほど。'20年には2万校を目指していますが、この調子では埒があきません。

そのためにも、給食の実態と、給食を司る組織の硬直ぶりを、今こそ少しでも多くの人に知って欲しかった。

私は子供たちにちゃんとしたものを食べさせたいと心から願っています。そのためにあえて自分の目で見た現状をお話ししました。食べることへの知識と教養を身に付けるのに、給食は最適の機会なのですから。

「週刊現代」2016年9月24日・10月1日合併号より